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信長の野望オンラインSSスレ

1 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/06/17(木) 00:33
短編(SS)はここ、長編は1スレ消費可
職人さん集まれ

2 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 03:59
向こうの板が過疎しはじめているのでこちらに。
覇王伝の状況を参照した三好・足利関係のお話です。
足利の方々ゴメンナサイ・・・
松永久秀ファンの方々、ゴメンナサイ・・・

史実を元にしましたが、ところどころ間違っている個所も多いかと。
出来の悪い歴史小説と思ってくだされば結構です。
存分に叩いてやってください・・・

『信』

秋が終わり始めている。
山城の国の木々も色を変えて久しく、すでに葉が落ちてしまっている。
そんな中、京都二条御所の離れへ向かう人影があった。
(晩秋落日、将軍家の色を映すがごとし・・・か。
とと、いくらなんでも口に出したら無礼すぎるか・・・)
小奇麗な僧衣に身を包んでいるその人物は、憂鬱そうに呟いた。

3 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 03:59
かつての「将軍家」としての繁栄は足利家から消え去り、京の町も荒れてしまっていた。
戦国の世の始まりはそもそもこの京を中心とした応仁の乱からであったが、
それも全て足利将軍の権威が弱まったことに起因している。
さらに近頃は、細川晴元の打倒を掲げて阿波から進出し、
近畿地方を制圧した三好長慶の勢いが大きく、足利家は三好家との戦に
連敗している状況だった。
日々、京から一人、また一人と住人が逃げ出していく。
京の町に飛び交う商売の声も、少なくなっていった。

日が暮れると、京は物騒だ。物の怪が出るとも聞く。
僧衣の人物は歩を早めた。
御所への入り口まで来て、槍を手にした門衛が彼を呼び止めた。
「お待ち願おう。何のご用件ですかな?」
僧衣の人物は小さく笑い、若い門衛に向かって顔を見せた。
「大した用件でもないさね。義輝様に茶を一献差し上げようか、と。」
「あっ、玄雲どのでしたか。これは失礼を」
かしこまろうとする門衛を、玄雲と呼ばれた僧は右手で制した。
「気にすることはないさね。お呼ばれしたわけでもないんじゃし」
この僧は、年齢もまだ30を少し過ぎたばかりで若いせいか、
学のある高僧とは思えないような喋り方をする。
それを煙たがる同僚も多いが、この若い門衛などにはそれがかえって好印象のようだ。
「分かりました。将軍様は丁度先ほど茶室へ向かわれたところです」
「おお、それは好都合。じゃ、通らせてもらうさね」

4 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 04:00
御所の離れにある東山風の茶室に、足早に使番がやって来て、
建物の外から主人に来客のあったことを告げた。
「ほう、玄雲が・・・彼なら堅苦しい儀礼も抜きだ。そのまま茶室に通せ」
足利義輝は落ち着いた声で使い番に答えた。
使番が走り去っていく足音を耳にしながら、義輝は目の前の沸き立つ湯を
無心に見つめつづけていた。シュッ、シュッ、という蒸気の音だけが響く。
ほどなくして、茶室の前に人の気配がした。
「玄雲、参りましてございます」
おごそかな調子だが、どこか陽気な感じのする玄雲の声だった。
義輝の顔にかすかな笑みが浮かぶ。
「来たか。入れ。・・・後は玄雲と二人にしておいてくれ」
後半は茶室の周囲に控える影たちに向けての言葉だった。
茶室というものは大勢の敵が一斉に襲い掛かれないようには出来ているが、
万一の時に将軍を守るため、庭や屋根の裏などには手練れた忍びが潜んでいる。
そうした忍びも最小限の人数を除き、将軍の命に従って気配を消した。

茶室は玄雲と義輝の二人になった。
「さ、これでかしこまることはない。楽にせよ」
義輝の言葉に、玄雲は顔をほころばせた。
「いやぁ、有難いことです。天下の将軍様に、幼少のころから
面識があるという縁だけで、こうも親しくしていただけるとは。
これはもう、腕によりをかけた旨い茶を振舞わねば・・・」
玄雲の飾らない口調は、義輝の近習には顔をしかめる者もいたが
まだ若干29歳の義輝自身はそれを好ましく思っていた。
「天下の将軍様・・・か・・・フ・・・。
自分の領地らしい領地も無く、三好などにいいようにされている
征夷大将軍など、どれほどの価値があろうな・・・」
義輝の顔に深いかげりが見えた。
「そのようなことをおっしゃるもんじゃない! 
あんたは将軍様だ。誰がなんと言おうと。
それだけであんたに従いますよ。ワシなんかで良ければ」
言いながら玄雲は手早く茶を立てていく。
本来、喋りながら茶を立てるなどマナー違反だが気にしていないようだ。
「だいたい、戦なんて何度負けたって、大将が生きてればいいさね。
漢の高祖だって、88回負けてから天下を取ったんだ・・・
・・・とと、いくらなんでも無礼すぎましたかね?」
熱弁を振るっていた玄雲が急に我に返ったさまが滑稽で、
義輝は思わず吹き出しそうになってしまった。
「フ、よい。お主のような物言いをする者も一人はおらんと気が詰まる。
訪ねてきてくれて嬉しいぞ」
「こりゃまたご過分なお言葉を・・・タハー有難いことです。
ささ、茶をどうぞ」
義輝は玄雲から湯気の立つ椀を受け取ると、静かに飲み干した。
じわり、と茶の味が口中に広がる。
「・・・旨い。すまんな、本来は私がもてなす役であろうに。
お主の茶は、旨い」
「どうもどうも。喜んでいただければ幸いさね。
・・・あんたも、ずいぶん気を落としていると、山寺まで噂になってるもんだから」
義輝の顔に再びかげりが見えた。
沈黙の時間が流れてしまったので、玄雲はあわてて他の話題を探した。
「そ、そう言えば今日は細川藤孝どのの姿が見えませんでしたな」
「うむ」小さく頷く義輝。「藤孝には越前をはじめ、各国へ向かってもらっている。
いよいよ三好が京をも制圧するつもりのようだからな・・・兵が、足りん」
「戦、ですか・・・恐ろしい。自分はつくづく、戦でだけは死にたくない、
死ぬ時は畳の上で往生したいと思っておるさね。
刀や槍を目にするだけでも恐ろしい。ワシは臆病な者ですのう」
義輝はかぶりを振った。
「それが普通だ。お主は武士ではない・・・
全ての民が、戦で命を落とさぬような世を、作りたいものだ・・・
玄雲、お主は戦で死ぬなよ。生きて、私の考えを後世に伝えよ」
「縁起でもないことを! アンタはワシより何歳か年下なんじゃから、
長生きせんといかんさね。ワシも戦じゃ死ぬつもりもない・・・」
玄雲はともすれば沈みがちな義輝を励まし続けた。
静かに日が落ちていった。

5 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 04:01
場所は変わり、大和の国、信貴山城。
三好家家老、松永弾上久秀の居城である。
玄雲と足利義輝が茶室で語らった数日前、ここには兵が集められていた。
しかし、旗やのぼりなどを控えるように伝達がされており、
どこかへ出陣するというよりも奇襲をかけるのではないかといった雰囲気だった。
「大声でみだりに騒がぬようにせよとの指示だ。
また、城下の草(間者)狩りを行え。我等の出陣準備を気取られるな。
出陣先については追って沙汰する。散れ」
三好家の足軽大将であり、百人の足軽を連れて参陣した香川白太郎は
自らの部下に、松永久秀からの指示を伝達していた。
各組頭が行動を開始するのを見てから、白太郎はふぅっとため息をついた。
何しろ、どこに出陣するかも知らされないままの急な召集だ。
相手は紀伊の雑賀衆なのか、それとも山城の足利家か・・・
若いながらも文武に優れた能力を発揮するこの男は、形のととのった顔に
しわを寄せながら考え込んでいた。
その時、白太郎の背後にふっと人影が現れた。驚いて振り返る。
「足軽大将、香川白太郎・・・殿、に間違いないかな?」
女人かと見間違うほど整った顔立ちと白い肌、澄んだ声。
しかし、右の顔に大きなアザがあり、そのために完璧な美男子とは言えない。
だがそれがゆえに、全体として不気味な美しさをたたえている。この男が松永久秀だ。
今回の出陣に際し総大将を務める人物が突然現れたことに、白太郎は目を丸くした。
「は・・・ハッ。松永殿直々に、何の御用で・・・」
思わず声をうわずらせている白太郎に、松永久秀はニッと笑って見せた。
「今回の出陣では、山城に向かうよ」
「山城。京、ですか」久秀の短い物言いに、白太郎は戸惑った。
「そう・・・だが、正確ではないね。我らは、一気に二条御所を襲う」
「!!」
それはすなわち、将軍を殺害することを意味する。
「驚くことはないよ? 足利義輝は細川晴元と並ぶ、三好家の仇。
長慶様のお父上、元長様を殺した憎い敵さ。
主君の敵を討つために、相手が将軍であろうと何だろうと構わないだろう?」
「そ、それはそうです。自分も・・・元長様の恨みを晴らす、即ち長慶様のためなら
この刀を振るうのに躊躇いはありませぬ」
白太郎は落ち着きを取り戻して見せた。久秀は満足そうに頷く。
「フフフ・・・そして、今日はもう一つお願いがあるんだ。
足利義輝と言えば、武芸なんかに精通している、卑しい剣豪としても有名だね。
きっと、簡単に殺されてはくれないだろう。
そこで・・・香川君。君も、塚原ト伝に剣を学んだことがあると聞いてね。
是非、御所への切り込みの際には先陣をお願いしたいのさ」
久秀の言葉に、香川白太郎は自分の血がたぎるのを感じた。
「願っても無い! 一番槍をつけさせていただくのは武士の誉れ。
自分のような者でよければ、将軍なにするものぞ・・・必ずや首を取ってみせます!」
「フフフ、ありがとう。期待しているよ・・・」久秀はニヤリとした。「出陣は夜明け前。
それまでは休んでおくといいよ」
「ハハッ! ありがとうございます!」
白太郎はその場にざっと平伏した。
久秀はその場を立ち去りながら、浮かんでくる笑いをかみ殺していた。
(クク・・・クククク! 扱いやすいものだねェ、武芸バカってのは・・・
もう、相手が将軍だろうと何だろうと、犬みたいに忠実に向かっていってくれるよ・・・)

6 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 04:01
そして、時は玄雲が義輝の元を訪れた日に戻る。
玄雲は御所の離れの一室を寝室としてあてがわれていた。
翌朝には再び寺に戻るつもりであったが、どうにも義輝の気落ちした様子が
気になって、なかなか寝付けないでいた。
(何とか、義輝様の役に立ちたいものだのう。
とはいえ戦働きなぞできんし・・・ワシは茶を立てるだけさね)
ぼんやりとそんなことを考えていたら、夜だというのに早馬がやってくる音がした。
「急使!急使でござる!」
早馬の主が大声で叫んでいた。玄雲は嫌な予感がした。
この時期に急使とは、あまり良い知らせではあるまい。
玄雲はなるべく関わりあいにならないですむよう祈りながら布団に潜った。

しかし、庭に次々とかがり火が焚かれはじめるに至って、
どうやら緊急事態らしいことが玄雲にも分かった。
「・・・何故そんな近くに来るまで分からなかったのだ!」
義輝の声だ。近習の者を叱責しているらしい。
「・・・申し訳ございませぬ! 狼煙を上げるはずの連絡役も、
松永久秀の手によって買収されていた上に、大和に入っていた
忍びの者からも連絡が途絶えておりまして・・・」
「もうよい! かくなる上は一戦するより他あるまい・・・」
ああ、悪夢のような事態らしい・・・と玄雲は頭を抱えた。
出来ればこの事態が夢であってほしいと思ったが、残念なことに現実のようだ。
「玄雲! 起きておるか!」
義輝が玄雲の寝室の障子越しに声をかけた。
「は、はぁ。先ほど起きました・・・い、戦、ですか?」
「戦だ! それも、この御所を直接包囲しおった!
三好家、松永久秀の手の者どもだ! すぐに着替えよ!」
玄雲は立ちくらみがした。(最悪だ・・・)と一人ごちて、ゆっくり立ち上がった。

7 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 04:02
「包囲は完了したかい?」
松永久秀は周囲の侍大将たちに確認をとった。
「東西南北、しっかり固め終わりました!
御所は堀もなく、脆弱な門と土塀のみ。すぐに潰せるでしょう」
「いいね、いいね・・・」久秀は部下の報告に満足そうだ。「後は踏み込むだけ。
義輝の近習は手練れが多いと聞くから、油断はしないようにね。
さ、香川白太郎殿、君の出番だよ」
白の甲冑という目立つ大鎧を身に着けた白太郎が前に進み出た。
「ハッ。香川以下足軽100。これより死地に入ります」
「期待しているよ・・・」笑っていない目で久秀は頷いた。
白太郎も頷き、刀を抜き放ち、部下に門を破るよう指示した。
「進めぇぇぇ!!」

三好勢が御所を包囲しているうちに、義輝とその近習も甲冑を身に着け、
戦支度を整えていた。
しかし、細川藤孝を初め、主だった武将は国外に出ており、
御所に残っているのはわずかな手勢のみ。
松永久秀と足利義輝、この小さな戦の勝敗は火を見るよりも明らかだった。
さすがに武士の頭領だけあり、義輝や護衛たちはこの死地に至っても
堂々としており、怯えた表情を見せていない。
しかし、普段から臆病と言われる玄雲は震えが止まらなかった。
「・・・すまぬな、玄雲。巻き込んでしまって・・・」
「い、い、い、い、いえぇ。ここ、こうなれば拙僧も戦う、のみ、さね」
義輝の言葉に、玄雲は精一杯強がってみせた。
首を横に振る義輝。
「無理を言うな。私の小姓と共に、全てが終わった後、久秀に命乞いをせよ。
私の首さえとれば、奴らも無駄に殺しはせぬだろう。
足利将軍は、最期も立派に戦って散ったと後世に伝えてくれればよい」
「そ、そんなことを・・・最期など・・・言うもんじゃないさね・・・」
だが、現実の絶望的な状況を前に、玄雲も言いながら肩を落とした。
その肩を義輝がぽん、と叩く。
「さあ、合戦と行こうぞ。久秀めに一泡吹かせてやるとしよう。
蔵にある刀は全て持ちだしておるな。
刀も最後まで使われずにいるのは悔しかろう。これらの名刀、
全て試し切りしてくれようぞ。
・・・行くぞ! 三好勢を迎え撃つ!!」
オオオオッ、と義輝の指令に応える咆哮が上がった。
義輝と近習の武士たちが門に向かって飛び出していく。
玄雲はその場に一人残され、うつむいたままだった。
(・・・恐ろしい・・・が、ワシも、見届けよう・・・)
玄雲はソロソロと立ち上がった。

8 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 04:02
長い間修繕されていなかった御所の門はたちまちに破られた。
咆哮を上げながら、香川白太郎以下足軽部隊が御所の中へ切り込んでいく。
足利家の武士も良く戦っていたが、1人が3人以上も相手にする状況では
力及ばず、次々に三好勢に討ち取られていった。
先頭にたって戦う白太郎は、御所の建物内に踏み込み、
一際高貴な格好をしている人物を見つけた。
たちまち、その周りを固めている護衛の武士が切りかかってくるが、
白太郎の部下がその相手をする。白太郎は高貴な姿の人物と向き合った。
「・・・征夷大将軍、足利義輝殿に相違ないかッ!?」
しゃッ、と刀を抜き放ち、白刃を向けながら白太郎は叫んだ。
「いかにも。名乗るがよい、三好の者よ」
義輝は頷きながら刀を抜いた。
「三好家足軽大将、香川白太郎! 旧主、三好元長の仇! 覚悟!」
名乗ると同時に、鋭く白太郎は切りかかった。
必殺の太刀筋であった。並みの者ならかわすことも出来ないだろう。
「下郎がッ! この義輝の首、そちのようなものにはやれぬ」
しかし、義輝も剣術を極めた身である。その剣戟をあっさりと受け流すと、
返す刀で白太郎の右脇から肩へと強烈に切り上げた。
ドッ、という音と共に白太郎の右腕の付け根から鮮血が噴出し、
ゴトリ、と腕が床に落ちる。
一瞬遅れて激痛がやってきた。苦悶の表情を浮かべる白太郎。
「ム、無念ッ・・・」
その場に崩れ落ちる白太郎。続いて白太郎の部下たちが
次々に義輝に切りかかっていくが、いずれも数合と打ち合わぬうちに切り伏せられた。
「はっはっは! さすがは足利家に伝わる名刀よ。よう斬れるわ・・・
次の刀を用意せねばな」
白太郎の部下が恐れをなして逃げていくのを確認してから、
義輝は蔵から出した名刀の数々を取りに一旦座敷へ戻っていった。

9 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 04:03
その義輝の剣豪ぶりを、物陰から玄雲は震えながら見ていた。
(す、すごい・・・噂には聞いていたが、義輝様の武者ぶりの何と凄まじい・・・)
ともすれば、あの腕前でもってこの窮地を脱することができるのでは、
などという考えが頭をよぎったが、やはり包囲は厚いようで断念した。
と、その時、死体かと思われた三好家の武士がかすかに動いた。
驚いて玄雲はそちらを見た。先ほど右腕を切り落とされた、
最初に義輝に切りかかった武士−白太郎だった。
「そ、そこに・・・いる者・・・」
玄雲はギクッとした。体が震えるのが分かる。
「き・・・聞いてくれるだけでいい・・・」かすかな声で白太郎は続けた。
「私は・・・将軍を殺す悪名すらも厭わぬつもりで戦った。
しかし、力及ばず・・・敗北せり。願わくば、香川家の者に悪名が及ばぬよう・・・
将軍に切りかかった不孝者、そのうえ切られた未熟者・・・
それは白太郎自身の悪名であり、香川家・・・には関係のないこと・・・だ」
この男は自分に遺言を残そうとしている。玄雲は思わず聞いた。
「な、なぜアンタは・・・そこまでして、命を賭けたのさね?
こんな、恐らく死ぬと分かっている役目・・・世に聞こえた剣豪に
最初に切りかかる役目なんて、まっぴら御免じゃないのかい?
ただでさえ、戦に出るってだけでも、怖いもんだろうに・・・」
玄雲の言葉に、苦しそうにしながらも白太郎は笑って見せた。
「・・・武士は、己を知る者の為に死す、と言う。
松永久秀殿は、家中では嫌われているが・・・あの方なくしては、
旧主・元長様の敵を討つ・・・今回のような機会などありはしなかった。
そんな人が・・・自分を信頼し、切り込みの役目を任せてくれた。
自分は、それに応えただけ・・・信頼を裏切りたくなかった・・・それだけ・・・」
白太郎は、ふうっと大きく息を吐いて、そのまま事切れた。
(信頼を・・・裏切りたくなかった・・・信頼を・・・)
その言葉が、玄雲の頭の中を駆け巡った。

「香川白太郎どの、討ち死になされました!」
物見からのその報告に、松永久秀は笑って見せた。
「クク、やはりあのような者では駄目だったか・・・
使えぬ奴よ! 下らぬ奴よ! 武芸など、戦の役に立たぬことが証明されたわ!
もはや京がいかに荒れようとも構わぬ。御所に火を放てッ!」
松永久秀の声とともに、二条御所へ向かって無数の火矢が放たれた。
紅蓮の舌が建物を嘗めていく・・・

10 名前: 投稿日: 2004/06/17(木) 04:04
数本の刀を新たに抱えた義輝は、御所に火が放たれたことに気づいた。
いよいよここまでか、と小さく笑ってみせる。
そこに、悲痛な面持ちで玄雲が現れた。
義輝は玄雲と目を合わせないようにしながら、彼に投降をすすめた。
「玄雲、火が回ってしまう前に久秀へ投降せよ。
私は今から最後の切込みをかける」
玄雲はしばらく黙ったままだったが、弱々しくかぶりを振った。
「駄目だ・・・駄目なんだ・・・」
「?」いぶかしがる義輝。
「駄目なんだよ・・・あんたが死んじゃあ・・・!
あんたが生きていれば、いくらでも足利家はやり直せる。
死んでしまったら、後はきっと久秀が自分の意のままになる将軍を立てる。
駄目なんだ・・・そんなことさせちゃぁ・・・」
玄雲は震えていた。その肩を義輝はやさしく叩く。
「致し方あるまい。いつか、心有る大名が上洛するだろう。
その時に、幕府の権威は取り戻されるかもしれん」
「そ、その上洛する大名だって、信頼できる奴かどうかなんて分からんさね!
・・・言ってくれよ!
あんたとワシは歳も近い、姿格好も似てる!
ワシを影武者にすれば、あんたは生き延びられる!
言ってくれよ! 『自分の代わりに死ね』と!
あんたが信頼してくれれば、臆病なワシも・・・期待に応えられる・・・」
「・・・!」
義輝は、玄雲の決意が並々ならぬことを感じ取った。
普段戦に怯えるこの男が、何故急にこう思ったかは分からないが、
これを拒絶することは、玄雲の人格を否定してしまうことだと分かった。
「・・・分かった。玄雲、私の影武者になれ。
私は・・・生きて、将軍家と・・・それに従ってくれる民を、守る」
「それでいいさね」玄雲の体の震えが、不思議とおさまった。

「義輝が出てきたぞ!!」
三好家の武士たちが、たちまち足利義輝を取り囲む。
無論彼らは知る由も無いが、それは、足利義輝の鎧と兜に身を包んだ
僧、玄雲であった。義輝自身は、玄雲の僧衣に身を包み、小姓たちとともに
久秀勢に投降した。将軍を討ち取ることに集中する久秀は首実検も怠り、
彼らの投降を認め、逃げていく彼らを追わなかった。
足利義輝は、生き延びた。
そのことだけで、玄雲は満足していた。

11 名前:10 投稿日: 2004/06/17(木) 04:05
しかし、いざ無数の槍や刀に囲まれると、止まったはずの体の震えがぶり返してくる。
(ヘヘ、こ、怖いもんさね・・・)
玄雲は刀をしっかりと握り締めた。
(信頼を・・・裏切りたくない。その一念だけで、あの香川とかいう男も命を懸けた。
義輝様も・・・ワシを信頼してくれた。
なら・・・ワシも、茶しか立てたことのない手だが・・・いっちょ、
恥ずかしくない『将軍の最期』を演じてみなきゃねぇ)
見よう見真似だが、玄雲はまっすぐに刀を構えてみた。
思わず後ずさる三好家の武士たち。
(1人や2人、道連れにして大往生と行こうかね)
体の震えが止まった。玄雲の視界が、ふうっと晴れていくようだった。

と、その瞬間、玄雲の体が宙に浮いて、仰向けに転んでしまった。
後ろに回りこんでいた三好家の侍の一人が、槍で玄雲の足を払ったのだ。
「ハハ! 将軍がお転びなされたぞ! 今だ、討て!」
たちまち、胸や腹に無数の槍が突き立てられる。
ぐぶ、と玄雲はくぐもった声を上げた。口の中に血が溢れてくる。
(タハ、か、かっこわりい最期だ・・・すまねぇ・・・義輝様)
全身から力が抜けていく。
(だけど・・・信頼には、応えられたかな・・・へへ。生きろよ・・・義輝様・・・)
玄雲の意識は途切れた。満足そうな顔であった。

ほどなくして、その首が松永久秀のもとにとどけられた。
将軍を討ち取ったと聞いて有頂天だった久秀は、その首を見るやいなや顔色を変えた。
「ば・・・馬鹿者めッ!! これは義輝の顔ではないわッ!!
おのれっ、逃げたか、義輝!
探せ! 草の根を分けても探し出せーーッ!!」
その激昂ぶりに震え上がった三好勢は、たちまちのうちに散っていった。
久秀は怒りが収まらぬといった表情で、空を睨みつけた。


数ヶ月して、足利義輝は越前の国にて存命、という噂が流れた。
すでに次の将軍までも擁立する準備をしていた久秀は唇を噛み切るほど
怒りをあらわにしたという。
将軍を暗殺しようとした、という悪評の高まりは久秀の立場を困難にしていた。

後に義輝が京へ戻り、足利家を再興させた時、
二条御所には小さな碑が立てられた。
その由来を知る者は少なく、義輝はその碑について多くを語らなかった。
ただ、「信じる者の為に死した偉大な人物、莫逆の友のために」とだけ、
短い碑文を自ら刻んだのみだった。

12 名前:雨中の忠誠1 投稿日: 2004/06/20(日) 21:25
集結論議スレの例題「犬」で思いついちゃったので初投稿
三時間で書いたから誤字とかあったらごめんなさい

 ……その女性が目覚めたのは、降り始めた小雨のせいか。
小さな雨粒が頬ではね、その冷たさが混濁していた意識を現実へと引き戻す。
目覚めた女性を待ち受けていたのは、大きく目を見開いた男の顔だった。
口や鼻から流れ出した赤い粘液と、泥にも似た顔色とが、男の魂が肉体から離れたことを示していた。

 苦悶の表情のまま死んだ戦友の瞼を閉じてやり、全身の痛みをこらえながら女性は立ち上がった。
後頭部の鈍い痛みの他にも、左の足首は挫いており、左腕の裂傷は深い。
傷口に巻かれた布は彼女自身の血で赤く滲んでいる。
鎖が編みこまれた忍び装束は汗と雨と血を吸い、ほとんどの体力を失った女性には日常の数倍の重みにも感じられる。
忍び頭巾はどこかで無くしたのだろうか、
雨に濡れ戦場には不釣合いな妖しさを漂わせる黒髪が青ざめた顔にまとわりつく。
わずらわしい髪をはらうことすらできず、生気を失った目で彼女はゆっくりと周囲を見渡した。

 凄惨な光景、といっていいのだろうか。
女忍者の呟きは空気を揺らすことなく、彼女の口内で消えていく。
彼女の周囲には物言わぬ死体が無数に転がっていた。
動かぬ肉塊と砕けた甲冑、折れた刃に破れた旗……。
折り重なった遺体で地面は見えず、数刻前まで繰り広げられた激戦の血生臭さを洗い流すかのように、振り続ける雨。
彼女以外に動く物体は無く、どこか遠くから流れてくる剣戟の音だけが、
散発的に戦闘が続いていることを教えてくれていた。

13 名前:雨中の忠誠2 投稿日: 2004/06/20(日) 21:26
 不意に、鳴き声が聞こえた。
足元に擦り寄る愛犬を見下ろし、ようやく女忍者の目に意志の光が戻ってきた。
円らな瞳には主人に対する揺るぎない信頼と深い情愛が秘められていた。
苦しそうな主人を支えるように右足に寄り添っている。
純白の体毛は泥と雨で薄汚れ、斑模様のように犬を飾っている。
彼女はこの犬を産まれた時から知っていた。
忍犬として育て上げ、寝る時も傍においていた。
敵陣への突撃のさいにはぐれてしまっていたのだが、無事に戦場を潜り抜けて主人の下へと戻ってきてくれた……。

 満身創痍の状態で新たな気配を感じ取ったのは、
彼女の優れた資質と訓練で培われた経験とが極限状況でも有効な証であっただろうか。
雨の中、女忍者に近付く四人の人影。
兜や具足に大きく描かれた家紋は、ゆっくりと歩み寄る四人の武者が彼女の敵であることを意味していた。
武者の一人が持つ野太刀から滴る薄紅色の雨水が、女忍者に臨戦態勢をとらせていく。
主人を守るように低く唸りをあげる愛犬を心強く思いながら、表情を消し、女忍者は小太刀を抜き放った。

 静かな雨音を裂いた苦内が殺到した一人の喉に突き刺さった。
立っているのがやっと、と思われた女忍者の正確な投擲に、武者達に緊張が走る。
現実から愛想を尽かされた男は血の噴水と化しながら崩れていく。
倒れる仲間にはめもくれず、一段と強くなった雨音を圧するように響く気合の声とともに、
武者の野太刀が死を呼ぶ一陣の烈風となって女忍者に降りかかる。
武者の激しく大きな動作とは対称的に、女忍者は最小限の動きしか見せなかった。
鉄の死風を柔らかに小太刀で受け流し、がら空きなった武者の喉を深く突き刺す。
一連の流麗な動作は、骨を砕いた重い手ごたえとともに、武者の首を貫き通して止まった。

 まったくの無表情だった女忍者の顔に人間らしい感情がよぎったのは、喉を貫かれた武者が小太刀を掴んだ時だった。
僅かに残った命を振り絞り、野太刀を捨てた両手で小太刀を強く掴む。
自分の身を犠牲にして敵から得物を奪い取った武者は、大地に折り重なる死者の群れへと静かに加わって行った。

 女忍者の心では絶望が少しずつその領域を広げていた。
残った二人の武者のうち、一人は愛犬が牽制してくれている。
彼女は目前の敵に集中していれば良かったのだが、長槍を自在に操るその武者にじわじわと追い込まれていた。
予備の小刀では攻撃を受け流すことしか出来ず、挫いた足首が彼女から普段の敏捷性を奪っていた。
挫いてさえいなければ、瞬時に間合いを詰められるのに……。
悔しさとともに疲労が膨らんでいく。

14 名前:雨中の忠誠3 投稿日: 2004/06/20(日) 21:27
 来るべくして来た破局、と言うべきか。
女忍者は大小様々な障害物を避けながら、武者が繰り出す突きをなんとかかわしていたのだが、
雨泥で滑り易くなった地面に足をとられたのだ。
自分の愚図さを呪う暇さえ彼女には与えられなかった。
激痛が体中を駆け巡り、目の前が白一色で塗りたくられる。
左肩を刺されたとわかったのは、槍が引き抜かれてからだ。
やっとの思いで右腕を動かし、噴出す血を押さえようとした。
傷みで霞む彼女の目に、とどめを刺すために狙いをつける武者の姿と、斑模様の白い影が映った。

 予期せぬ方向から予想もしない攻撃を受け、武者は長槍を取り落とした。
鎧の隙間から食い込んだ牙に傷つけられたと理解する前に、武者は喉を食い破られていた。
主人と同じようにしっかりと急所を狙った一撃を誇ることなく、忍犬は主人の前に立ちはだかった。
白と土色に赤色を加えた斑模様の毛が雨に濡れ皮膚に張り付いている。
最後に残った武者をうなり声とともに鋭く睨みつけた。

 最後の武者は狡猾だった。
懐から取り出した毒丹を投じたのだ。
忍犬ではなく、倒れこんで動けないままの女忍者に向かって。
犬はどこまでも主人に忠実であった。
宙を舞う丹薬の軌道に身を投げ出したのだ。
犬の体に丹が触れた途端、爆音とともに湧き上がった炎が犬と雨を吹き飛ばした。
肉が焼ける、いや焦げる臭いが辺りに立ち込める。
一旦は地に伏した忍犬だったが、ゆっくりと立ち上がり武者を睨みつけた。
胴は焼け爛れ、足はふらつき、呼吸は荒く、豪雨は忍犬を打ちのめす。
それでも、その眼光からは力強さは失われず、武者の前に立つその姿は、
敬愛する主人を守る静かな誇りに満ちていた。
微かな驚嘆と賞賛を感じながらも、武者は躊躇しなかった。
太刀が振り下ろされ、犬の首筋を断ち切った。

 返り血を拭いもせず、武者は倒れこんだままの女忍者へと向き直った。
いや、向き直ろうとした。
彼に女忍者を見ることはできなかった。
両目から苦内が生えていたのだから。
苦痛の叫びが大気を震わせたのは数秒だった。
小刀の一閃が彼の喉を深く切り裂き、視覚と声に続いて、彼の命を奪い取った。
最後の力で小刀を振るった女忍者は、愛犬の骸に寄り添うように倒れこんだ。

 ……半刻ほど過ぎただろうか。
滝のような雨に打たれながら、女忍者は立ち上がった。
擦り寄ってくることも、鳴き声をあげることもなくなった愛犬の骸を抱いて。
雨水が血泥を洗い流し、真の色を取り戻した純白の毛に、涙が一滴、吸い込まれて消えた。

 死者を悼む号泣にも似た雨の中、痛む足を引きずり愛犬を抱きかかえ、女忍者は歩き出した。

15 名前:夢霞幻斎@烈風伝 投稿日: 2004/06/22(火) 02:13
お題、犬、ということで、職人様でも、なんでもありませぬが、一手指してみようかと思い、筆をとりました。お目汚しをば、失礼つかまつる。


 愁々と降り積もる雨が、桶狭間山の地面を染めるように覆う血溜りを洗い流していく。それが幕切れの合図にでもなったのだろうか。先ほどから天空を切り裂くように鳴り響いていた鉄砲隊の銃砲も、長槍隊の鬨の声も、騎馬隊が足軽を蹂躙する剣戟の響きもすでに遠く、静まり始めている。
「勝ったな。この戦」
 黒備えの甲冑の男は、そうつぶやくと、手にしていた刀を鞘に収めようとし、刀が曲がり、鞘に入らない事に気がついて、舌打ちして捨てる。愛馬はすでに息絶え、槍も既に折れていた。後は脇差一本で自軍の陣地まで歩いて帰るしかない。従者である足軽達とも離れ離れになっている。
「連中、無事ならいいんだがな」
 甲冑の肩当に食い込んでいた矢を引き抜いて捨てると、男はそうつぶやいて桶狭間山の山道を上り、山頂に翻る味方の旗印を目指して歩き出した。
 半刻程歩いたであろうか。霧雨は止むことなく、男の体温を奪ってはいるものの、所々で味方らしい勝鬨が上がり、見下ろす麓の景色からは敵軍が陣を引き払うのを目にし、気が緩んだ男の視界に黒い、小さな影が横切ったのである。
 それをかわし得たのは、平素から怠らぬ鍛錬の成果か、あるいは歴戦の勇者が持つ神がかった直感であろうか。
 首当てを丸ごと持っていかれるような強烈な衝撃に眩暈を感じながらも男は腰に下げていた脇差を居合い腰に抜き打ち、その飛び掛ってきたであろう影にたたきつける。
 確かな手ごたえを感じながらも、男は油断せずに腰を落とし、周囲をうかがう。だが、襲い掛かってきた影は意外なものであった。
「犬? 忍びの犬か?」
 影はそのまま山道の合間に飛び込んでいくように姿を消し、その気配すらも消していったが、男の一撃によって切り落とされたであろう犬の肢が一本、雨にぬかるんだ地面に落ちていた。
 忍犬。
 忍びが使う調教された犬は、それだけでも雑兵を上回る活躍をしてみせる。暗殺を生業とする忍びの中には無二の相棒として使うものもいると聞く。男は初めて出くわしたが、それでも周囲に忍びがいるのかもしれぬと警戒を強めた。忍犬が単独で行動するはずがないからだ。
 男は用心しながらも雨で流れかかった血の跡を頼りに犬の後を追ってみる。この場に立ち止まっていても再び忍びからの襲撃を受けるだろうし、また無視して歩いてもこの悪天候の中で追撃を受けては、むしろ危険になると見たのである。
「脇差だけってのは痛ぇな・・・・・・」
 つぶやきながらも、周囲の気配に神経を研ぎ澄ませ、雨音に隠れる些細な音も漏らすまいと耳を済ませながら、男はそのまま歩き続けたが、思っていたよりも早く、忍犬は見つかった。
「・・・・・・そういう事か」
 山林の中でもひときわ大きく枝葉を伸ばした木のたもとに腰掛ける様に息絶えている忍びの遺骸を庇うように、後ろの片足を失った忍犬は、それでも近づいてきた男を威嚇するように三本の肢で立ち、牙を剥いていた。
「たいした奴だな。お前。主を守っていたんだな」
 忍びは死ぬ時には痕跡を残さない。おそらく自らの顔を焼いたのであろう、醜く焼け爛れた忍びの死に顔はそれでも不思議と嫌悪感も、醜いとも感じなかった男は静かにその遺骸に向かい片手で拝み、脇差をしまう。片足を切り飛ばされてしまってはさしもの忍犬も長くはあるまい。それならば、最後まで主人を守らせてやろうと思ったのである。
「雨、止むといいな」
 男の気持ちがわかったのか、牙を収めた忍犬はかすかに唸ると、そのまま肢を引きずるように主人の膝元へと座り込んだ。
 おそらく、それは主人が休む時の自分の居場所だったのだろう。
 男はもう一度だけ片手で拝むと、そのまま背を向けて歩き出した。
 犬の魂が、主人と同じ場所に逝けるように、願いながら。

16 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/06/28(月) 23:48
   ___   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 /´∀`;::::\ < SSスレに進出しちゃったよ!
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| ./|  /:::::|::::::|

『テレホの車窓から EX』 「お題:犬」

大型パッチが目前に迫ってきましたね。
修正前はみんな生産を控えているのか、稲葉山と甲府を
2往復したんですが手ごろな武器が見つからず…日々是伐採。

そんな中、以前から調査を行っていた「甲斐屋敷」についての
報告をまとめましたので、「犬」というお題のもと
つらつらと一筆書いてみようかと思う次第であります。

まず、信onのフィールドで甲府から真っ直ぐ東へ向かい、
富士五湖のうち河口湖のあたりから山中に入ると
甲斐屋敷が見えてきます。外から屋敷を覗いてみると、
番犬が門を守り、庭には斥侯犬、狩猟犬などが放し飼いにされています。

外から眺めているだけでは分からないこともあるでしょうから、
早速屋敷の中へお邪魔してみましょう。
レベル45なテレホマンですが、番犬が盛大に出迎えてくれました。
防御付与のついているレベル30前半の犬です。
手練れた人なら難なく突破できるでしょう。
噛み付かれながらも中に入ってみます。

17 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/06/28(月) 23:54
『テレホの車窓から EX』 「お題:犬」

さて、甲斐屋敷も他国の屋敷とたがわず、別館と本館から
成り立っています。まずは別館を覗いてみましょう。
狩猟犬に混じって、変わった名前の犬が見えます。
別館には「銀河」「小碧」という犬がいます。いずれも
数匹の狩猟犬と徒党を組んでおり、庭にいる犬の
倍近い生命力を持っている強い犬です。

本館はどうでしょうか。こちらにも、狩猟犬に混じって
「小鉄」「黒目」「赤兜」「蒼鮫」という固有名の
中ボス犬がいます。そして本館の一番奥には
「犬使い」という陰陽タイプの敵がいました。「犬使い」は、前述の
「銀河」「小碧」「小鉄」「黒目」「赤兜」「蒼鮫」と
徒党を組んでおり、この屋敷のボス的存在であるようです。

しかし、なぜ甲斐屋敷は他国の屋敷と違って
国人や旧領主などの武将が存在せず、敵が犬だけなのでしょうか。
その謎を解くカギは、甲斐という国の特質にありました。

18 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/06/29(火) 00:04
『テレホの車窓から EX』 「お題:犬」

「甲斐犬」という犬種をご存じでしょうか?
甲斐、現在の山梨県を発祥の地とする純日本犬です。
甲斐犬は「虎犬」とも呼ばれ、何も調教しなくても
狩猟犬としての天性の資質を備えていると言われます。

山間で育つため、スタミナと敏捷性、反射神経に優れ、
人間とともに狩りに出る際には、常に主人のサポートに回り
獲物を深追いせず、とどめは必ず主人にささせるという賢さで有名です。
また、一度主人と決めた人間以外には決して心を開かず、
死ぬまで一人の主人に従い続けるという「一代一主」の犬とも呼ばれます。

犬使いと甲斐犬は狩猟の際のベストパートナーであり、
山に囲まれた甲斐の国では、長い間狩猟によって生計を立てていた
人々が多く暮らしていました。
甲斐屋敷が山中にあり、犬使いを除いて人間が存在しないのは
そうした理由にあるようです。

19 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/06/29(火) 00:13
『テレホの車窓から EX』 「お題:犬」

ところで、「銀牙〜流れ星 銀〜」という
すごい犬たちがすごい熊を倒す昔の漫画の作者、
高橋よしひろさんの祖先にも、この「犬使い」の人がいたようです。

「銀牙伝説ウィード外伝」という単行本コミックスのとある漫画で、
作者自身が自分の祖先のことについて語っている部分があり、

『自分の祖先に八太郎という犬使いが居た。
幕末の時代に犬を引き連れ、火縄銃を持って奥羽山中を歩き回り、
スパイが藩に入ってきていないかを警戒していた。
祖先も犬と関係が深かったせいか、自分も今犬の漫画を書いている…』

と書かれていました。
高橋よしひろ氏は秋田県の出身であり、甲斐の犬使いとは
直接は関係がないようですが、こうした「犬を使う人物の系譜」は
ある意味甲斐犬とその犬使いから発祥したと言えますし、
甲斐屋敷に「銀河」や「赤兜」などの名前を持つ犬が登場するのは
そうしたオマージュをこめているのではないでしょうか。

なお、「銀牙〜流れ星 銀〜」にも甲斐犬が登場しています。
甲斐の魔犬三兄弟「赤虎」「黒虎」「中虎」です。
彼らの名前は、甲斐犬の毛並模様を指す言葉になっています。
強いの? 活躍したの? と聞かれるとちょっと困りますが
「魁!男塾」の富樫・虎丸ぐらいの活躍でしたと言っておきます(ヲイ

20 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/06/29(火) 00:18
『テレホの車窓から EX』 「お題:犬」

蛇足な補足をしておきますと、
「銀河」は正しくは「銀牙」、主人公の「銀」という
虎毛の秋田犬の二つ名のことです。
ソノママだとまずかったので改変しているのでしょうが。
「赤兜」は「赤カブト」で、銀たちの宿敵である
隻眼の超巨大ヒグマの名前でした。

様々な甲斐犬を見ることのできる甲斐屋敷に、
あなたも訪れてみませんか。

それでは次回こそ『テレホの車窓から』
「摂津和泉編」をお送りします。

外部のSSスレも埋まったようですので、
職人さんいらっしゃいましたらどんどんこちらへ投下して下さい。
たくさんの作品をお待ちしつつ、ageて筆を置きます。

21 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/12(月) 13:49
車窓からおつかれさまです

>「魁!男塾」の富樫・虎丸ぐらいの活躍でしたと言っておきます(ヲイ
うはははははははは

22 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:04
コソーリ。
『信』の逆で、風雲録サーバーの状況を参考にしました。
どこが「信on」の小説ですか? と言われると…うーん?
とりあえず松永久秀が好きです(違)



『光』

「老いたものよな…」
松永弾正久秀は、己の白髪頭を指で撫で付けながら呟いた。
摂津、『大阪』城。夜の風が冷たい。
三好家の面々は、山城より侵攻する足利将軍家に押しに押され、天王山での戦いに連敗し、
ついに近畿方面の本拠地であるこの『大阪』城まで追い詰められていた。
「斜陽の将軍家、と侮っておったが…なんのことはない。
衰えていたのはこの三好家であり…私であったのだ…」
かつては絶世の美男子と呼ばれていた久秀の容貌にも、年齢を重ねるに連れ皺が刻まれ、
右の顔半分に残る大きなアザを撫でながら、久秀は深くため息をついた。
大阪城から見下ろすと、すでに城の周りに煌々とかがり火が焚かれているのが分かる。
おびただしい数の足利軍がこの城を取り囲んでいるのだ。
夜明けとともに、総攻撃が始まるだろう。
それはもはや陣取戦と呼べるものではなく、足利による一方的な殲滅戦になるだろう。
久秀は近習の者に下がるように言うと、静かに目を閉じた。
もはや、なるようにしかなるまい。今は体を休めておこう。
具足も身につけたまま、腰を下ろした姿勢で久秀はいつの間にか眠りに入っていた。

23 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:05

久秀が寝入ってからいくばくもせぬうちに、ふと、障子の隙間から光が差し込んだ。
それは、奇妙な感覚だった。
何か異質な、しかし強烈な光だった。
そして同時に、戦いを告げる武者たちの雄叫びがあちこちで聞こえ始めた。
(…夜襲!?)
久秀は飛び起きた。素早く太刀を掴むと、素早く部屋の外に飛び出した。
外は明るくなっていた。いや、すでに昼になりかけていた。
(…馬鹿な? この私が、こんな時間になるまで寝入ってしまっていたと言うのか?)
自分の時間間隔とかけ離れた明るい世界に放り出されて、久秀は少しうろたえたが、
すぐに落ち着きを取り戻すと、その足でそのまま前線へ向かった。
大阪城南門の付近に敵の寄せ手が向かっているように思えたので、そちらへ足を向ける。
南門付近では、赤い鎧を身につけた、やや背の低い見慣れぬ武将が采配を振るっていた。
「よし、引き付けよ! 二十間で鉄砲隊は一斉射撃!
案ずるな、この真田丸はあの程度の寄せ手にはビクともしない!」
武将の指示に従い、南門の出城から鉄砲隊が一斉に鉛弾を放つ。
たちまちに敵の寄せ手から悲鳴が上がった。赤い鎧の武将は馬上からその様子を眺める。
(…妙だ。あのような出城は昨日までは無かったぞ。一体…ここは『大阪』城なのか?)
久秀はその戦いを眺めながら、困惑を深めていくばかりだった。
ふと、その瞬間、赤い鎧を着た武将と久秀の目が合った。
改めて見てみると、この赤い鎧の武将はずいぶん細い目をしており、
涼やかな印象を受ける。その細い目が、眼光鋭く目の前の老将をとらえた。
「そこもと、見慣れぬ顔だな」
赤い鎧の武将は馬首を巡らし、久秀に向かいあった。そのまま言葉を続ける。
「具足や太刀を見ても、卑しい者には見えぬが…
城内にいるということは、大阪方に与力する者に相違ないか?」
「大阪方、と言えば大阪方だが」久秀は腑に落ちない表情だ。
「そなたこそ見慣れぬ顔だが、三好家の者ではないのか…?」
「三好?」予想外の応答に、赤い鎧の武将は困惑している。
久秀はちらり、と赤い鎧の武将の旗指物を見た。
1文銭が6つ並べられている家紋を、赤く染めたもの。
「六文銭…信州は上田、真田家の者か?」
久秀は、かつて武田信玄の元で智謀を発揮した武将、真田幸隆のことを考えた。
「いかにも」赤い鎧の武将は頷いた。
「拙者は真田昌幸が子、真田左衛門佐(さえもんのすけ)幸村。そなたは?」
(…昌幸の子? 幸隆の孫か? 孫がこのように大きゅうなっておったか?)
久秀は考えあぐねて、とりあえず自分の名を名乗ることにした。
「三好家家老、松永弾正久秀…」
「まッ、松永久秀!? 冗談では…ないのか?」
赤い鎧の武将…真田幸村は、目を丸くして驚いた。久秀は苦笑いしてみせた。
「どうやら…私は妙なところへ迷い込んでしまったようだ。
すまぬが、真田の。今、ここでどのような戦が行われているのか、説明してくれぬか?」

24 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:06

『信長の野望online』の大阪城で死した松永久秀。
史実の『大阪夏の陣』の大阪城で死した真田幸村。
どのように数奇な運命か、交わることの無い彼らの人生が、この終末の地点で交わった。

「…織田信長公が上洛、幕府を滅ぼす。
その侍大将に過ぎなかった男が、その後を継ぎ天下人に。
そしてその男が死んだ後、今度は三河殿が天下取りに名をあげた…というわけか。
ふっ、面白い歴史をたどっておるのだな」
大阪城南門の出城である真田丸にとりついた徳川軍を一時撃退することに成功し、
一息つくことのできた幸村は、異次元から突如現れたこの老将に、戦国の歴史と
そして現在、大阪城に残る豊臣秀頼と「江戸内府」徳川家康が天下分け目の決戦を
行っていることを方って聞かせた。
久秀は興味深くそれに聞き入った。
「…私の知っている歴史では、信長殿は、舅の斎藤山城守に屈服させられ、
早々と尾張を明渡しておったよ。どうやら私は、少し未来の世界に来たばかりでなく、
異なる歴史を歩んだ世界に来てしまったようだな」
「拙者の知る歴史では」幸村は久秀の語りをさえぎった。
「松永殿、あなたは『大悪党』として語り継がれていますよ。奈良の大仏殿を焼き、
主君を裏切り、足利将軍を暗殺した『破格の男』だと」
真田幸村は、細い目のために元々鋭い眼光をさらに鋭くして久秀を見た。
しかし久秀はその眼光に少しも気圧されることなく、豪快に笑い飛ばしてみせた。
「はっはっは、そのように名を残せておったか。それはいい。
悪名であろうとも、歴史に名を残せぬよりは、ずっと良かろうて
…しかし、木材と金属で出来ているだけの大仏を焼いたことが大悪党とはな。
悪というものも、安くなってしまったものだのう」
古いタイプの一本気な武士である幸村は、そうした久秀の開き直った態度が
気に入らないようで、悪びれもしない久秀の様子に嫌悪感を示した。
「…ともかく。あなたはこの世界ではもはや死したはずの人間。
それがどういうわけでここに迷って出たのかは存じませぬが、所詮は亡霊に等しい。
真田の戦をせいぜいご覧になって、冥土の物語にでもして下され」
「フッ。大きなことを言うな、真田のこせがれ。
見たところ、三河殿…徳川の軍勢は大阪城の兵の数を圧倒的に上回っておる。
どの程度のことができるというのだ?」
久秀と幸村は鋭くにらみ合った。
その張り詰めた空気を破って、真田丸に急使が飛び込んできた。
「幸村様―ッ! 後藤又兵衛基次殿、小松山にて討ち死になされました!」
「又兵衛殿が逝ったか…」
幸村は一瞬遠い目をした。後藤又兵衛は幸村と同じく、浪人の身から大阪方に
味方するべく馳せ参じた身分であり、互いに知略を競った仲でもあった。
「…次は、拙者の番であろうな」
幸村は久秀から表情を隠した。が、久秀は、幸村がこの合戦を死地として
選んでいることがはっきりと分かった。思わず久秀も神妙な顔もちになる。
「さらに、この真田丸を目指して再び徳川軍が進軍しております…いかがいたしましょう」
急使は報告を続けた。その言葉に不安がみなぎっている。
幸村は、部下の不安をはねのけるように力強く頷く。
「案ずるな。ここで持ちこたえ、秀頼様直々のご出馬を待つのだ。
…行くぞ! 再び寄せ手を蹴散らす! 皆のもの、声を上げよ!」
オオオッ、と周囲の武者たちから雄叫びが上がった。それぞれの持ち場へ散っていく。
「見物させてもらうぞ」
周囲の興奮をよそに、久秀は一人幸村の横へ座したままでいる。
幸村は不敵に笑って見せた。

25 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:07

「大阪城の堀は埋め、手薄な南門を攻める…というつもりであったが、
意外に苦戦しておるようだな?」
場所は変わって、徳川家康の陣。大阪城を攻め落とすための軍議が続いている。
恰幅がよく、穏やかそうな顔をした家康は、夏の暑さに汗を拭きながら言葉を続けた。
「真田は城に寄って戦うのを得意とするというが、まことだな」家康はため息をついた。
「そもそもワシは城攻めが得意でない。だからこそ堀も埋めたというに、まさか
出城を一つ作られたぐらいで手間取るとはな。真田の血、侮れん…
どうだ、誰ぞ真田の軍を蹴散らしに行こうという者はおらんか?」
並み居る諸将に向かって家康は視線を走らせた。多くの者が慌てて目線を逸らす。
と、その中に、家康の視線を真っ向から受け止め、
自信のありそうな表情をしている者が一人いた。
黒い甲冑に身を包み、右目を眼帯で覆ったその人物は、家康としばらくにらみ合った後に
立ち上がると、ゆっくりと名乗りをあげた。
「恐れながら…真田との一戦、この伊達陸奥守政宗にお任せいただきたい」
まだ若いが、奥羽一帯に勢力を持ち、家康に一目置かれている大名。
『独眼竜』の異名を取る、伊達政宗である。周囲がざわめく。
左の目しか開いていないのだが、その目の奥に燃える炎は見るものを圧倒した。
自信に満ちた顔つきである。その気迫は、そこらの武将とは格が違うものであった。
「政宗か、心強いぞ。早速、行け」家康は大きく頷いた。
「御意」
伊達政宗は一礼すると、素早く陣幕の外に出て行った。黒い風が通りぬけたようであった。

幸村の采配はますます冴え渡っている、という表現がぴったりであった。
城に攻め寄せる敵を引きつけては崩し、崩れたところを打って出て蹴散らす。
味方の数が少ないにも関わらず、まさに理想的ともいえる防衛戦を行っていた。
「フン、真田の。少しは兵を扱えるようだな」
松永久秀は正直、この幸村がここまでの采配を取れることに舌を巻いていた。
幸村はそれには答えず、ニヤリと笑って見せただけだった。
「しかし、ほれ。また新たな敵軍がやってきたぞ。あの黒い武者の軍団はどこの軍勢だ?」
久秀は前方に現れた敵の援軍を指差してみた。
「あれは…奥州、伊達家の旗印だな」幸村は目を凝らして敵軍を見つめた。
「伊達…輝宗殿か?」
「輝宗殿はもうずっと昔に亡くなっている。刺客に襲われたと聞く。
あれは、その後を継いだ…伊達藤次郎こと、政宗殿だ」
「ほう…輝宗殿のお子か。どれほどの腕前であろうな」
久秀はくっくっと咽喉を鳴らして笑った、幸村の好きになれない笑い方だ。
「どれほどの腕前であろうと、目の前の敵は倒すのみ」
幸村は鋭く敵軍を睨みつけた。

「我が軍は黒。真田の軍は赤か! ハハッ、面白いな、成実?」
巨大な三日月の立物のついた兜の下で、政宗は側に控える部下に笑ってみせた。
「殿、早く突撃をお命じ下され。俺ァ、もう血が滾ってたまりませんや」
政宗に答えたのは、同じ黒に染めた威鎧に身を包み、『決して後ろに退かぬ』という
意味のこめられた毛虫の立物をつけた兜を戴く、伊達成実であった。
政宗の片腕として、いつも先陣の切り込み隊長を任されている猛将である。
「おう、伊達の武名を天下に轟かせて来い! 成実、突撃せよ!」
政宗は太刀を鞘から抜き放ち、前に向かって大きくかざした。
「待ってましたぁ! 行くぜ、野郎どもッ」
オオーッ、と雄叫びが上がる。
成実は嬉々とした表情で、自分の部下たちとともに突撃を開始した。
黒い騎馬軍団が、真田丸へ向かって突撃していく。

26 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:08

「真田の。あの騎馬軍団、普通ではないぞ。注意せよ」
黒い騎馬軍団の突撃を見て、松永久秀はわずかに顔をしかめてみせた。
「騎馬の突撃には、長槍を持って槍襖で防げばよいだけのこと。
久秀殿、騎馬を恐れておいでですか?」
幸村はそう言いながら、槍隊を前線に出すよう指示を繰り出した。
松永久秀はそれに首を振ってみせた。
「違う。あの騎馬軍団、馬上から槍で攻撃する騎馬ではない。
騎馬であるにも関わらず、鉄砲を携えておる」
「!?」
幸村は久秀の言葉に慌てて敵を再確認した。
確かに、敵の黒い騎馬軍団は槍ではなく、火縄銃を馬上で構えている。
「馬鹿な、馬上から射撃するというのか?」
幸村がその言葉を言い終えるか言い終えないかの内に、黒い騎馬軍団の馬上銃が
轟音を上げて火を吹いた。
「うっぐ!」
前方に繰り出されていた長槍部隊が、長槍の届かない距離から狙撃され
ばたばたと倒れていった。たちまちに真田の前線が崩れ、長槍部隊は退却を始めた。
「見たかァ! これが、我らが殿が考案された『伊達騎馬鉄砲隊』だッ!
騎馬の機動力と火縄銃の火力を組み合わせた、いわば動く砲台ッ!」
伊達成実が大音声を上げながら突っ込んでくる。真田丸内に退却しようとする足軽たちが
黒い騎馬軍団のひづめに踏み割られていった。
騎馬鉄砲隊は弾込めされた数本の火縄銃を全て発射し終わると、馬上槍に持ち替えて
逃げ回る真田軍の足軽たちを次々に突き伏せた。
「くッ…一旦真田丸の中に退却だ! 味方が入りしだい門を閉じよ!」
幸村は兵たちを城内に戻した。城門を閉じ、出窓から鉄砲で伊達の騎馬軍団を狙撃する。
騎馬の突撃も城門には通じない。一気に敵を壊滅しそこねて、成実は舌打ちした。
「ちッ、城門を閉じられちまったか。
鉄砲の届かないところまで離れて、破城槌を持ってこい!」
伊達の黒い武者たちが遠巻きに真田丸を包囲した。
真田の部下たちにも焦りと不安の影が色濃く見える。
「おのれ…伊達め。馬上であれほどまでの射撃を行えるには、よほど訓練を積んだのか」
「そんなことを考えている場合か?」
久秀は歯噛みする幸村を笑うように言った。幸村が睨み返す。
「長槍も通じない騎馬兵相手では、分が悪すぎるだろう!?」
「はっはっは。真田の。鉄砲が強いのは遠くから攻撃できるから。
騎馬が強いのは、素早く動けるからだ。それを封じれば良いだけだろう。…策をやろう。」
久秀は幸村に何事か耳打ちした。幸村は一瞬怒ったような表情をしたが、
一つ頷くと、すぐに行動を開始した。

27 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:09

「成実、相変わらずの活躍ぶり、見事だな。さぁ、一気に真田丸を落としてもらおうか」
伊達政宗は満足そうな表情で自ら前線に赴いていた。
成実もまた、満面の笑みを浮かべて政宗を見る。
「へへ、大阪城攻めで伊達が軍功第一となりゃぁ、ウチの本領も安堵、
百万石も口約束で終わらない、ってやつですかね? 殿?」
「戦の後の話をするにはまだ早いぞ。 …む?」
政宗は左の目で真田丸の城門を見つめた。城門が、少しずつ開き始めている。
そして、開いた城門の隙間から、真田の足軽たちが丸腰で飛び出してきた。
「何だ何だ? 敵さん、こちらの強さに恐れをなして飛び出してきたってか。
こりゃぁいい、戦わずして勝つは最上なりってね。この機会を逃すこたぁねぇ、
野郎ども、開いた城門から一気に真田丸の中に突撃するぜっ!」
伊達成実はその様子を見るや否や、騎馬鉄砲隊に命令を下すと、
政宗の了解も得ずに突撃を開始してしまった。
「ま、待て成実! …く、もう行ってしまっておるか。
真田は謀略の将、何か策があるに決まっておろうに!」
政宗も慌ててその後を追いかけていく。

「へへッ! 真田丸の中ももぬけの殻じゃねぇか。
これで後は大阪城本丸に突っ込むだけってことか」
真田丸の内部に突入した成実は、守備兵の姿が見えないのに気を良くして
さらに軍を先に進めようとした。
と、その瞬間、いきなり愛馬が前につんのめって転倒し、成実は落馬してしまった。
「痛ッてぇー! 何だってんだ!?」
目を凝らしてみると、目立たないように薄茶色く染められてある麻縄が、
真田丸の内部のあちこちに、馬の足を引っ掛ける高さで張り巡らされていた。
これでは、この中を馬で駆け抜けることは不可能だ。
成実の周囲でも悲鳴があがり、落馬する者が相次いだ。
「おい! 馬の脚を取る罠が仕掛けられている! 真田丸の中に入ったら馬は降りろ!」
成実がそう言うが早いか、突然四方八方から赤い鎧を身に纏った真田軍が姿を現した。
ときの声を上げながら、騎馬を封じられた伊達軍を包囲して襲い掛かっていく。
狼狽する伊達軍に向かって、幸村が一際大きな声で吠えた。
「機動力を封じられれば馬は荷物にしかならぬ! 騎馬鉄砲隊恐るるに足らず!」
火縄銃を構える暇も無く、槍の届く距離に接近された伊達兵は次々と討ち取られてゆく。
「待ち伏せてたってのかよ! ちきしょうめ!」
成実は悪態をつきながらも、本来は馬上で使う大太刀を抜き放ち、
迫ってくる真田兵をなで斬りにしていった。その猛将ぶりに、包囲をしていた真田軍も
思わず浮き足立ってしまっていた。
そこへ疾風のように、一際立派な黒い甲冑を纏った騎馬武者が包囲を破って突入してきた。
「成実――ッ!」
政宗である。その巨大な三日月の立物と隻眼の姿で、すぐに伊達の大将だと知れ渡った。
大将首を狙って無数の足軽がその周りに群がったが、政宗は長槍で最低限の足軽だけ
突き殺すと、一人奮戦している成実を素早く自分の馬の後ろに乗せ、包囲を破って
真田丸から脱出を試みた。
「殿―ッ! 自分なんぞのために、御身を危険に晒しては!
それに、自分は決して退かぬと! この立物に誓っているんですッ!」
「少し黙っておれ、成実! 考え無しに突撃するからこのような目に遭うのだ!
それにこの戦、放っておいても徳川が勝つ! 我らが奥羽の兵をこれ以上失うわけには
いかん! だからここは退くのではなく『奥羽に向かって前進だ!』 理解したか!?」
政宗は強引な論理をまくしたてながら、騎馬の俊足に任せて一気に真田丸を脱出した。
「いかん、政宗を逃がすな! 鉄砲隊前へ!」
幸村は政宗を追撃すべく、手練れの鉄砲隊に政宗を狙撃させた。
しかし、銃弾は一発も政宗と成実に当たることなく、音だけを響かせていた。
「真田幸村! その名覚えておくぞ!」
伊達政宗は去り際にひときわ大きな声で言い放った。と、その時、幸村の横に居る
見慣れない老将の顔が目に入った。
右の顔に大きなアザがあるその武将をどこかで見たことがあるような、ないような、
そんな気がしながら、政宗は背中に成実を乗せて走り去っていった。

28 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:10

「…久秀殿、あなたの計略、見事成功しましたな」
幸村は部下に命じて伊達軍団から奪った火縄銃に弾を込めさせながら、
先ほどの敵を真田丸内に誘い込み、簡単な罠とともに騎馬隊を殲滅する作戦を
提案した松永久秀の知略に感心していた。
「フ。あの程度の軍略が上手くいってしまうのは、相手の武将が猪武者だからよ。
本来ならば、投降すると見せかけて総大将の首を掻くぐらい緻密な計画でなければならん」
久秀はこともなげに言ってのけた。
先ほどまでの幸村ならそうした久秀に嫌悪感を覚えているところだが、今は違っていた。
久秀もそうだ。幸村を青二才かと侮っていたが、互いの軍才が並々ではないことを
感じ取ったのか、良きライバルであるかのようにお互いのことを感じ始めていた。
「しかし、焼け石に水だな」久秀は目を細めた。「伊達の騎馬鉄砲隊によって、
こちらの兵はかなり負傷した。そのうえ、お主が頼りにしておる大阪方の総大将は
未だもって出陣する気配すらなし。三河殿は前線で自ら指揮をしておるのにな。
兵の数も違う。士気も違う。これでは戦いつづけたところで結果は見えている」
幸村は悲痛な面持ちで頷いた。
豊臣秀頼には何度も何度も、前線に立ち、兵士たちを鼓舞して欲しいと頼んであるが、
その度に秀頼の母である淀君によって、にべもなく跳ね除けられている。
大将が前線に立たないのだから、その大将を慕って大阪方についた兵士たちは
ただ「死ね」と言われているに等しい。自分の戦い振りを見てもらえないのだから。
「…もはや、総大将のご出馬が望めぬなら、敵の総大将の首を取る以外に
この戦、勝つ手段は無いでしょうな」
「無理だ」久秀は幸村の言葉に首を振った。「古今東西、寡兵の突撃によって敵の総大将の
首を取った戦の例など全くないと言っていい。
それに、三河殿の本陣の前には越前精鋭兵、本陣には三河武士の馬廻衆。
この強固な防衛網は打ち破れまいよ」
「ですが、このまま防衛を続けていても、第二第三の伊達軍が現れ、数日と立たぬうちに
真田軍を壊滅させるでしょう。…ならば、後は死を覚悟し、吶喊するのみ…」
真田幸村の腹積もりは決まっているようだった。久秀はため息をつく。
「愚かな決断だ…。しかし、それしかないのだろうな。
ならばせめて、策は尽くしておけ…。耳を貸せ」
久秀は再び、幸村に何事かを耳打ちした。

「伊達も敗走したか」
家康は苦々しく呟いた。温厚で知られる彼だが、今回は少し苛立っているように見えた。
「もはや手段を問うている場合でもないようだな。投入できる兵を
できるだけ多く向かわせ、力押しに真田丸を落とし、大阪城本丸へ向かうのだ」
家康がそう命じると同時に、急使が徳川の陣幕へ飛び込んできた。
「何事か?」家康は努めて冷静に声を出した。
「はッ。敵将真田幸村、右翼に現れました。こちらの本陣に向かっております」
「ほう…何と、向こうから野戦を挑んできたのか?
愚かな。この家康が野戦を得意とすると知ってなお打って出るとは、妙なものよな。
何か策でもあるのか…」
家康が思案を巡らせている間に、さらに急使が2人飛び込んできた。
「申し上げます! 敵将真田幸村、中央中備えの陣に強襲を仕掛けて参りました!」
「物見によると、左翼の陣にても『我こそは真田幸村なり』と名乗りを上げる武将が…」
ガタッ、と音を立てて家康は床几から立ち上がった。
「複数の影武者を使い、こちらを撹乱し、一気に本陣を狙うつもりだ。真田は。
報告に上がった真田幸村は相手にするな。本陣の守りを固めよ」

「我こそは真田幸村なりっ!」
戦場のあちこちで真田幸村の名乗りの声が上がった。
松永久秀の提案である。影武者をあちこちに差し向けることで、その討伐に
家康が本陣の兵を動かせば、その分本陣の守りが薄くなる。
その隙をついて、本物の幸村が本隊を率いて一気に家康を狙う、という計略であった。
しかし家康は感づいたようで、本陣は守りを固められていて動かない。久秀は舌打ちした。
「三河殿は乗ってこなかったか…流石に慎重だな。すまんな、真田の」
幸村はかすかに微笑んだ。
「久秀殿はお気になさらず。拙者は元々切り込むつもりでありましたから。
…では…ほんのわずかな間でしたが、お世話になり申した」
いよいよ突撃を敢行する時が近づき、幸村は久秀に軽く一礼した。
ところが、久秀の返答は意外なものであった。
「フ…ここまで来たのも何かの縁だろう。最後まで、付き合おう」
言うなり、久秀も太刀を鞘から抜き放った。幸村は驚いたが、
素直にその与力を感謝し、無言でもう一度深々と礼をした。
「…行くぞ! 真田幸村、これより死地に入る!」
これまでに無いほど大きな雄叫びが上がった。

29 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:10

それからの二人の働きは、凄まじいものであった。
もとより武芸よりもその知略を活かして戦場で活躍してきた二人だが、
これが最後と思い切ったためか、その槍が唸り、刀が振るわれるたびに
徳川軍の血しぶきが大阪の空に飛び散った。
「な、なんだ、あの幸村とともに戦っている武将はッ…三好家の紋?
しかし…強いッ」
久秀の太刀さばきに恐れをなした足軽が、そんなことを口走った。
「ふむ、三好…」久秀はふと、呟いた。
「そうさな、三好青海入道、とでも名乗っておこうか」
言いながら、太刀を突き出し、鎧の隙間を突いて一人、二人と絶命させた。
「三好青海入道…?」
すぐ横で槍を振るう幸村が、怪訝そうな顔をした。
久秀が軽く笑ってみせる。
「フ。遠い将来、真田幸村とともに戦った勇士として、そうした名が残れば
面白いと思わんか?」
「あっはっは。それなら、この突撃に加わった面々を全員加えて、
真田十勇士とでも呼んでもらうようにしておこうか」
圧倒的多数の敵に囲まれながらも、二人は明るい表情で戦っていた。
死を覚悟した者たちは、強く、真っ直ぐであった。
そして、ついに。
家康の本陣前を守る越前精鋭兵たちの囲みを突破した。
家康の本陣にたどり着いたのである。
久秀が、家康の旗印である金骨の日の丸を掲げる馬印を切り倒した。
三方が原の戦いで、徳川軍が武田軍に敗れて以来、一度も倒れたことのない旗印が
どうっ、と地面に倒れた。その光景は、徳川兵たちを恐怖させた。
(まさか、家康様が負ける!?)
そうした戦慄が彼らに走るのが、はっきりと見てとれた。
久秀はニヤリとした。ひょっとすると、本当にこの突撃で…
勝てるはずのない、圧倒的少数の大阪方が、万に一つの勝利をつかめるかもしれない…

そう考えた瞬間、
久秀の胸板を、背中から長槍が貫通した。

「…!」
後ろに徳川軍の兵士が回り込んでいたことに気づかなかったとは、迂闊すぎた。
声が出ない。
幸村が、崩れ落ちる久秀の姿に気づかず、ひたすら、家康がいる陣幕へ向かって
前進し、立ちふさがるものを槍で突き伏せて進んでいた。
それでいい。
振り返るな。
久秀は声にならない声で、「戦国時代」の終わりを飾る、最後の武将の突撃が
自分の死によって中断されないよう、願った。
幸村は、ただ一心に、槍を振り回していた。
(お前が、ひょっとしたら三河殿のところまでたどり着けたかもしれんのを、
見届けることができないのは、残念…だな…
全く…この私に、ふさわしくもない… 突撃の上で討ち死にとは…フ…)

『三好青海入道』の意識はそこで途切れた。

30 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/14(水) 06:11

『松永久秀』は『大阪』城の一室で目覚めた。
まだ夜だ。
慌てて胸元を探ってみる。勿論、傷など無い。
(…夢…だったのか?)
太刀を確かめる。具足を確かめる。
その場にある。何も変化はない。
と、急に部屋の周りが騒がしくなった。
「何事か?」
久秀は部屋の外へ向かって問い掛けた。
返事の変わりに、障子が踏み倒され、武装した武者たちが踏み込んできた。
足利家の侍ではない。三好家の侍だ。
「…どういうつもりだ、貴様ら?」
「お分かりになりませんか、久秀殿」三好家の侍は、重々しく言い放った。
「この戦、もはや勝ち目は無い。足利家には、どうあがいても、もう勝てませぬ。
ならば、せめて、あなたの首を手土産にして、足利に投降いたす」
「アッハッハッハッハッハ!」
久秀は突如として大声で笑った。三好家の侍たちがギョっとして久秀を見つめる。
「ハッハッハ…」なおも久秀は笑いつづけていた。「全く、ここまで対照的とはな!
死を前にしても、なお己の美学に殉じようとするもののふと、
己の保身しか考えぬ卑しい侍の違いだ。おぬしらに幸村の姿を見せてやりたいよ」
「幸…村?」三好家の侍たちは、とんと何のことだか見当がつかないと言った顔だ。
「よかろう!」久秀は膝をたたいた。 「この松永久秀の命運はここまでのようだ。
しかし、貴様らには、この久秀の家宝も、白髪頭の首もくれてやることはできんな」
言うが早いか、久秀は床の間に飾っていた名茶器・平蜘蛛を手に取ると、その中に
鉄砲の弾薬に使う硝薬を大量に注ぎいれた。
「ひ、久秀殿、何を!?」
「見て分からぬか? 家宝も、首もやらぬといっただろう。
…さらばだ。 急々如律令ッ…」
久秀が陰陽道の文言を唱えると、懐に入っていた呪符が炎を上げて燃え出した。
そして、火薬の詰まった茶器を、その火のついた懐に抱え込む。
「ヒイイッ!」
三好家の侍は慌てて部屋から逃げ出そうとしたが、少し間に合わなかった。

爆発音。

久秀の視界は、光に包まれた。

(幸村よ。あの世で会えたら、地獄の鬼どもを相手に戦国の続きを行こうか…?)

まばゆい光が、途切れることなく、世界を包み込んでいった。
(終)

31 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/20(火) 00:42
22〜30

gj!

32 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/07/29(木) 05:04
「七夕」

「…遅い、な…」
街の近くにある巨大な笹。
空には遥かに遠い星々の煌きと、すぐ近くに在る白い月が見える。
岩に座ったまま、その少女は呟き、そっと笹へともたれかかった。
こつん、と額を膝にあて、瞳に草を映し出す。
漆黒の長い髪の毛と、少し大きめの瞳。
陰陽師特有の服に深く刻まれたスリットから覗く白い足。
それらは不思議と夜の闇にあってさえ…かすかな輝きを帯びているように見えた。
「あの人の事だから…また…今日が何の日か…忘れてるんだろうなぁ……」
ぽつり、文句をその唇から紡ぎ出すが…その目は怒っているようには、見えない。
と、土を踏む音がその場に来る者がいる事を告げた。
その瞬間少女の顔が喜びに輝き、可愛らしい顔立ちには似合わない…
お転婆と言っても差し支えないような行動でもって、立ち上がって振り返る。
「あ、来た!」
「?…悪い、少し…遅くなった」
少女の瞳には少し困ったような顔をした少年が映し出されている。
幼さを残しながらも、精悍な顔つきで髪は後ろで無造作に束ねられていて、それが少年には
良く似合っているものの、少し雑な印象を抱かせる。
そして、少女は不満そうに唇を尖らせて軽く少年を睨んだものの、それは一瞬ですぐに
満面の笑みを浮かべて嬉しそうに微笑む。
「…結構、待ったんじゃないのか…?」
屈託の無い笑みから照れくさそうに視線を逸らしながら言う少年。
だが、少女はその少年の素振りを軽く笑っただけで見過ごし、岩の上に載せていたものを後ろ手に隠した。
「大丈夫、だよ」
「そ、そっか…なら…いいんだけど……」
落ち着かない少年。
「……?」
「ん、いや…なんでもない…」
2人きり、というのが照れくさいのか…少年はまるで落ち着きがない。
そして少女はそんな少年の様子をしばらく微笑みながら見つめた。
ふと、二人の視線が絡む。
一瞬の静寂。
そして。
「あ、あのさ、用ってなに?あ、用っていうか…渡したいもの、だっけ?」
慌てて、少女から視線を逸らす。
少女はほんのわずか…拗ねたような表情を見せたが、やれやれ、といった感じに肩をすくめた。
「今日が何の日か……覚えてる…?」
「え…?今日…?今日?」
突然の問いかけに視線を宙に彷徨わせながら必死に考えている。
だが、答えはまるで出ないようで…少年の額にはうっすらと汗が滲んできていた。
「お前の誕生日は…違うし……え…?今日?」
ますます思考は混乱の度合いを深めていっている。
「はい、これ」
そんな少年の様子をしばらく優しい微笑みでもって見つめていた少女だが、
唐突に悪戯を企む子供のような無邪気な笑みを浮かべて…後ろ手に隠していたものを少年に渡した。
薄い赤の布に包まれ、きらきらと光を放つ青いかんざしによって留められた、小さな包み。
「……?」
それを見ても、まだ少年は答えを出せない。
「開けてみて?そうすれば、答え…わかるから」
「う…うん……」
そうっと、壊れ物を扱うかのように、その包みを開いていく。
かんざしを注意深く取り、衣擦れの音と共に中にあるものが顕わになっていく。
そこには、一枚の赤い短冊と共に肩掛けがあった。
「あ……」
「くすっ…気付いた?」
少年の手元を覗き込みながら、少女は笑う。
「ごめん…今日は……」
わずかな後悔と、罪悪感を顔に貼り付けたまま少年はうつむく。
「あなたったら、昔から、変わらないね?でも…変わらない、変わらないままのあなたが…私は好きだよ」
少年の顔を見て、もうゆるしてあげる、といった感じで少女は言った。
思わず、顔を上げる少年。
「え?今、何て……」

33 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/07/29(木) 05:06
しかし、その時には少女は少年から離れて、背中を向けている。
その頬は、わずかに桜色に染まっていた。
「もう…あ……えっとね…耳、貸して?」
「耳?」
訝しげに訊く少年。
視線を逸らしながら、言う少女。
「大きな声じゃ…恥ずかしいから……ね?」
「あ、うん…耳だね?」
不思議そうな顔をしながらも、少年は少女の側まで来て、少し、屈んだ。
そして少女は、少年の視線から逃れるよう少年の肩に額をあて、深呼吸をする。
頬は、桜色を通り越して…赤く。
一瞬だけ目を閉じ、意を決したように…動いた。
「え…」
ほんのわずかな間。
頬に感じた柔らかい、感触。
それが少女の唇だと認識するよりも早く…少女は少年に囁く。
「大好き、だよっ…」
その言葉が少年の頭に入るまでに数瞬の時間を要し、そして理解するまでには数秒の時間が過ぎた。
そっと少年から身体を離した少女は照れ笑いを浮かべて少年を見つめる。
殆ど首まで真っ赤にしながら、少年は真っ直ぐに少女を見つめる。
視線が絡み合って…お互いの表情を見て、さらに照れる。
少年は喉を鳴らして唾を飲み込み…真っ赤な、真剣な顔で、答えた。
「…俺も、だよ……」
「………」
「俺も…そのえっと…お前、が……」
気の毒なくらいに真っ赤になっている少年。
「お前が好き……」
しかし、少女はこれ以上はない、というくらいに幸せそうな笑みを浮かべて、
少年の言葉を遮るように、自分の人差し指を少年の唇に触れさせた。
「いいよ…」
紡ぎ出そうとした言葉を止められて、不思議そうな顔をする少年。
微笑みを絶やさぬまま、真剣な瞳をする少女。
そうして、数秒の間、見つめあって…少女は少年の唇に触れさせた人差し指を自分の唇にあてて、口を開いた。
「言葉じゃなくても…言葉に、しなくても…わかる、から」
「………」
そっと、少女の肩を抱く少年。
けれど、視線はそのままで。
互いの瞳に互いを映しあえる距離まで近づいて。
吐息が頬に触れる場所まで抱き締めて。
静かに、少女は、瞳を閉じた。
「ん……」
軽く、触れ合うような…くちづけ。
そして、互いを確かめあうかのような…長い……
数瞬。
数秒。
数分。
時の感覚さえもわからないままに、二人は抱擁を、キスを、交わす。
どちらからともなく、そっと…名残惜しそうに唇を離した後…
「愛してるよ………」
「私、も…あなたの事…全部、愛してる…」
何かに怯えるような目で。
何かを求めるような眼差しで。
再び。
見つめあう…二人。
言葉ではない、何かで。
意思を伝え合う。
語り合う。
そして……
もう、一度。
少年は少女の身体を優しく、そして強く、抱き締め…
少女は少年の首に両腕を回して、わずかに熱い吐息を漏らす。
「幸せに…して、ね?」
「うん…誓う、よ…誰よりも……愛してる………」

2人を優しく祝福するかのように柔らかな風が吹き、赤い短冊が宙を舞う。
ゆらゆらと舞うそれは、地面に落ちてしまう前に微かに光を放って、消えた……

34 名前:吾輩は犬である1 投稿日: 2004/07/30(金) 00:39
>>12-14
を書いたものです。また「犬」で思いついちゃったので投下
みなさまの良き暇潰しになりますよう……
ちと長いし、読み辛いかもしれませんが。
尚、犬の視点で書かれているため、情景描写を意図的に省いている箇所が多数あります


『吾輩は犬である』

 吾輩は犬である。犬と言ってもそこらの雑種やみすぼらしい野良犬や猛々しい野犬などと一緒にしないでもらいたい。純粋純血、紛れもない土佐犬である。……土佐犬のつもりではあるのだが、正直、自信はない。父と母は土佐犬である、と言い張っていたが、吾輩が今いる地は土佐から遠く離れた甲斐の国である。父母の代に甲府へと連れて来られたらしい。

「お耳〜。お耳〜」

 とはいえ、たとえ純血の土佐犬でなかろうと、吾輩がそこらの同種族とは大きく異なるのは一目瞭然である。まず毛並みの良さが違う。鼻はそこらの輩の倍は利く。耳はバッタの飛ぶ音さえ感じ取り、吾輩の素早い動きは猫よりもうまく鼠を捕まえる。さらに、この鋭い牙と爪にかかれば、そこらの獣などイチコロである。

「お鼻〜。お鼻〜」

 このように、吾輩は一見しただけでわかる優れた犬なのであるが、

「ふさふさ〜。さわさわ〜」

 人間という輩は非常に

「ぎゅ〜」

 度し難い

「お団子食べる?」

 食べます。


 食い物で釣るとは、やはり人間とは非道な輩である。とは言うものの、腹が減っては戦はできない。吾輩は優れた知能を持つ犬なので、野蛮な人間のように戦などしないのであるが、比喩表現というものである。

 ……先程から重いと思っていたが、この娘、吾輩に寄りかかったまま寝ておるではないか!どういう躾けを受けて育ったのだ。まったく、人間という種族は子育てさえろくにできないのか。吾輩を枕代わりにするなど無礼極まりない。体を動かして地面に直接寝転ばせてくれる!

 ……いや、団子をもらったしな。今日のところは勘弁しておいてやろう。吾輩は人間と違って、温厚かつ人情(ならぬ犬情)に厚いのである。我ながら惚れ惚れする名犬ぶりであるな。


 吾輩が(嫌々)娘を寄りかからせて寝そべっている場所は茶屋の軒先である。この町は人間達の言葉で甲府と言い、多くの人間が行き来する都市なのである。当然ながら犬も多い。吾輩ほどの犬はいないが。

 さて、吾輩が娘に玩具として遊ばれている間、傍らの長椅子では二人の人物が話しこんでいた。一人は趣味の悪い派手な服を着た長身細身の男である。京の都に住む公家とかいう輩はこの男のような格好をしているのであろう。冷静沈着を絵に描いたような男で、その落ち着き振りが我輩には気に食わない。

 もう一人は不精髭を生やした筋骨逞しい男である。二人の娘の顔を見るために、一月ほど前に甲府を訪れた、見るからに親父である。テツポウという物を得意としているらしい。吾輩はテツポウという物を始めて見るので良く分からないが、戦のための道具あるらしいから、大した物とは言えないであろう。身に過ぎた武具などは好戦性を煽るだけである。この前も、少しぐらい牙が鋭いからと威張っていた野良犬がいたので、こらしめてやった。人間であろうと犬であろうと、己の分をわきまえることが大事なのだ。

35 名前:吾輩は犬である2 投稿日: 2004/07/30(金) 00:41
「……行くのか」
「ええ、これは我等の責務。決着は我等の手でつけねばなりますまい」
「ふん、自国の罪は自国が責任を持って償う、か」

 ……なにやら真剣な話のようだな。公家のような男はともかく、不精髭の親父はただの子煩悩兼変態だと思っていたが……。

「それでは行きます。一足先に堺でお待ちしていますよ」
「船酔いはするなよ」

 不精髭に笑いを返すと(にやり、という音が聞こえてきそうであった)、男は勘定を済ませて出て行った。吾輩は奴を見直すことにした。無精髭の親父の分まで支払っていったからだ。食事を奢る奴に悪い輩はいないのである。


「気持ち良さそうに眠るなあ、お前は」

 髭親父が近付いてきた。非常に鬱陶しいが動くと娘が起きてしまうので動けない。

「うーむ。この寝顔、俺が愛したあいつにそっくりだ」

 酒臭い、近寄るな。名犬中の名犬である吾輩の鼻は利きすぎるのだぞ!酒臭さで鼻がもげるではないか!近寄るな、近寄るなと言うのに!

 さすがに吾輩は叫び声をあげかけたのだが、鈍い音とともに吾輩の声は喉で止まった。

 髭親父の側頭部に錫杖が命中。うむ、完璧にこめかみをとらえておる。見事な腕前だ。

「この変態親父!自分の娘にまで手を出すか!」
「待て、誤解だ、寝顔に接吻しようなどとはこれっぽっちも」
「思ってるじゃないかぁ!」
「愛情表現の一環であるからして、その、首を絞めるな」

 ……数珠で首を絞めるな、仏の罰が当たるぞ。吾輩は犬なので仏などという目に見えないものは信じないが。

 後ろから髭親父の首に数珠をかけて締め上げているのは、十代半ばの尼僧である。吾輩に寄りかかって眠る十代前半の娘―――薬師の修行をしているらしい―――の姉でもある。そして、二人の父親は締め上げられてる髭親父。どこをどうすれば、こんなむさ苦しくて暑苦しい親父からなかなかの美女が二人産まれるのだろうか。いや、実際に産んだのはこの親父ではないが、言葉の綾というものである。吾輩のように父母ともに名犬で、子の吾輩も名犬であればこのような疑問は起きないのだが。

「ち、父親の首を絞めるとは、俺はそんな娘に育てた覚えはないぞ」

 首を絞められているのに良く口が利けるものである。誉めたくないが、そのしぶとさは誉めてやろう。

「実際、あんたに育てられてないでしょうが!」

 ようやく親父を解放して、尼僧は大きく肩で息をしている。あの体勢から親父を仕留められないとは非力だな。念仏ばかり唱えていないで、力をつけたほうが良い。

「子供はお前達だけではないからな」

 胸を張って言う台詞であろうか。この親父、変態かつ助平であるらしい。大きな町ごとに子供がいる、と自画自賛していた。……自画自賛するようなものではないのだろうが、人間にとっては賞賛すべきことなのだろうか。吾輩のような名犬からすると、性欲を抑えきれないだけに思えるのであるが。

「……あんたの、そういうところが」

 握り締めた尼僧の拳が震えている。顔は真っ赤だが、これは照れではなく、怒り心頭というものであろう。どうやら吾輩と同じ感想のようである。名犬たる吾輩が許す。やってしまえ。

「大嫌いなんだ!」

 綺麗な正拳突きで親父はひっくり返った。見事である。髭親父の時とは違って、心の底から誉めてやろう。


「ほら、こんなところで寝てないの。帰るよ」
「ねむい……」
「まったくもう。ほら、おんぶしてあげるから」

 こんなに騒がしい状況でもまだ寝ていたのか。末は大物か、それともただ単に鈍いだけか。判断に困るところではある。ともあれ、尼僧が妹をおぶったので、吾輩も解放された。妹をおぶってゆっくりと歩き始めた尼僧を追おうとしたが、髭親父が気になって吾輩は振り返った。ひっくり返っていた親父は何事か呟いている。

「いい拳だ……。筋がいい。これは父親の俺譲りだな……」

 吾輩は侮蔑と呆れの視線で親父を一撫ですると、尼僧の後についていくことにした。尼僧はともかく、あの妹の方はあぶなっかしいので吾輩がついていなければなるまい。決して、尼僧の料理がうまいからついていくのではないぞ。おこぼれにあずかるなどと、名犬たる吾輩が、そんな情けないこと

「ワン公、今日は新鮮な川魚が手に入ったから、一匹あげるね」

 魚、最高であります。承諾の証に、吾輩は尼僧の足元で一声鳴いたのである。

36 名前:吾輩は犬である3 投稿日: 2004/07/30(金) 00:42
 吾輩は姉妹の住む家の軒先で寝そべっていた。満腹感に満ちた吾輩の眠りを妨げたのは、長屋の戸が開く音であった。辺りは既に暗く、明け方に近い。魑魅魍魎が元気に騒いでいる時間である。しかし、こんな時間に一体誰だ?さては、あの助平親父が娘の寝顔を覗きに来たのか。

「……聞こえる」

 吾輩の予想は外れた。戸を開けたのは尼僧であった。まぁ、名犬たる吾輩でも万物を見通すことはできないのであるからして、仕方のないことである。

 吾輩には目もくれず、尼僧は夜道を歩き出した。年頃の娘が夜中に一人で歩き出すなど、無用心にも程がある。ついてゆくべきべきか。僧衣に錫杖という最低限の服装も気になるが、それ以上にふらふらとおぼつかない尼僧の足取りが不安を煽る。さらには何か呟きながら歩いている。立派な挙動不審者といえる。

「ねぇ、ワンちゃん」

 突然背後からかかった声に吾輩は叫び声を上げそうになった。振り向いた吾輩の視線の先には尼僧の妹が立っていた。尼僧に気を取られていたとはいえ、吾輩に気配を感じさせないとは……。この娘、やはり末は大物か。

「お姉ちゃんの様子が変なの」

 夜中にぶつぶつ呟いて徘徊しているのだから、それは変であろう。吾輩と娘が見守る中、尼僧の後ろ姿は小さくなっていく。あのまま進めば町の外に出てしまうが……。

「変だけど、止めちゃいけないような気がするんだ。だけど、心配で……」

 止めろよ。吾輩は率直な感想をこめて娘の幼さが残る顔を見つめたのだが、娘にそれを聞き入れるつもりはないようだ。あどけない顔にたしかな決意が浮かんでいる。

「お姉ちゃんの後を追いかけたいの。手伝ってくれる?」

 膝を折り、吾輩の目線に合わせてくる。吾輩はそっぽを向いた。何度か食事をもらったが、心まで売り渡したつもりはないぞ。ふらつきたいならふらつけばいいではないか。

「お団子あげるから」

 た、食べ物でつれると思うな。いや、たしかに団子は欲しいが、父や母から、夜に町の外を歩くのは危ないと言われて

「お父さんのおみやげの桜餅もあげるから」

 仕方ない、ついていってやろう。吾輩は視線で背中に乗るように促す。娘の歩く速度では尼僧には追いつけないだろうからだ。

「ありがとう」

 にっこり微笑んで、娘は吾輩の背に乗った。礼には及ばぬ。だが、少しおも

「変なこと考えたら、尻尾引っ張るからね」

 ……なんでもありません。はい。まあ、いいだろう。雄は雌を守らなくてはならないのだ。これは人も含めた全ての獣の宿命なのである。

 なんとか自分自身を納得させた吾輩は、尼僧の匂いを辿って歩き始めた。


 娘を乗せた吾輩は、尼僧の後を追い歩いている。少し冷たい夜風を浴びて娘が震えたのがわかる。尼僧は街道から少し離れたところを北上していた。吾輩達は気づかれぬように一定の距離を開けて追跡している。

 ちなみに、吾輩達は町の外壁に開いた穴を使って外に出ていた。修復されないままに放置されてあったもので、子供達が親の目を盗んで町の外へ出るために利用されている。普通に門を使用するものなら、門衛に止められることがわかりきっていたからだ。名犬たる吾輩が知恵を絞ってやったのだ。感謝しろよ。

「お姉ちゃん、どこに行くんだろう」

 ……いや、心の底では感謝しているに違いない。なにしろ、吾輩を玩具代わりにしたり枕代わりにしたりするぐらいだからな。自分で考えていて情けなくなってきたのは秘密である。

「このまま行くと、信濃まで行っちゃうけど……」

 不安と脅えの入り混じった呟きが上から聞こえる。吾輩は甲斐の国から出たことがないから、信濃という国がどういう所なのか興味はある。だが、この娘を守りながらだと少々荷が重い。吾輩一匹ならば身軽だから、魑魅魍魎や物の怪の類に出くわしても逃げ切れるのだが。

37 名前:吾輩は犬である4 投稿日: 2004/07/30(金) 00:43
 娘の不安と吾輩の忍耐が頂点に達する前に、尼僧の足が止まった。辺り一面がこびりついた泥で覆われている。昼間、日の光の下であれば、緑の続く大地に茶色の川が流れているように見えたであろう。

「土砂崩れ……?」

 娘の呟きに吾輩は頷いた。数日前まで雨が続いていたからな。所々、白っぽいものや緑が見えるのは、巻き込まれた岩や大木の残骸だろうか。 泥の渇きぐらいから見ると土砂崩れが起きてから一日ぐらいしか経っておるまい。

 闇の中に静かな声が流れた。夜目の利く吾輩には立ち止まった尼僧が虚空に向かい語りかけているのが見えた。記憶を辿ってみた吾輩は、それが死者の霊を治めるための呪文であることに気がついた。甲府一の老婆が亡くなった時に、尼僧が唱えていたのを聞いたことがあったからである。本格的に気が触れたのではないことに吾輩は安心したのだが、吾輩の心の安寧は長く続かなかった。


 不意に闇が重くなった。息苦しさと閉塞感が言い知れぬ恐怖を呼び覚ましていく。

「静まりたまえ!」

 上ずった尼僧の声が明け方近い夜を裂く。吾輩の上で娘が息を飲む気配が伝わってきた。尼僧の周囲には炎のようなものが飛び回っていたのだ。驚愕の思いで見守る、娘と吾輩を嘲笑うかのように飛び回っていたのは……。

 吾輩は回れ右をして歩き出した。

「ちょ、ちょっと!」

 帰る、帰る、絶対に帰るぞ。あんな薄気味悪い首になど付き合っていられるか!吾輩の目に映ったのは、宙を飛ぶ人の首であった。兜をかぶっていたから、生前は落ち武者であったのだろうか。今、この時に限っては夜目が利く自分がうらめしかった。

「戻ってよ!戻らないとお団子も桜餅もあげないよ!」

 えーい、そう何度も餌で釣られると思うな!名犬危うきに近寄らずという言葉を知らんのか!

「なにもあの化け物と戦えって言ってるんじゃないんだから!」

 はいはい、口ではなんとでも言える。

「行って欲しいところがあるの!」

 吾輩は立ち止まり、娘の指差す方角を見た。そちらには、崩れ落ちた土砂が一段と高く積みあがっており、泥の小山といった印象がある。

「お願い!お姉ちゃんに頼んでお肉とかも食べさせてあげるから!」

 肉!なんと甘美な響き!心の底から躍りだしそうになる自分をなんとか押し止め、吾輩は娘の指差した方角に向かい駆け出した。


 小さな丘のように盛り上がった泥の前で、娘は吾輩から降りた。そのまま駆け寄ってしゃがみ込み、服が汚れるのもいとわず泥を掘り返し始めた。……姉に続いて妹まで挙動不審者になったか?吾輩が肉を食する日は来るのであろうか。

「見てないで手伝って!ここを掘るの!」

 ……犬に言われたとおりに掘ったら黄金を見つけた話は聞いたことがあるが、犬に命じて土を掘らせるなど聞いたことがない。

「お肉いらないの!?」

 いるであります。吾輩は嫌々ながら娘の隣に陣取り泥を掘り返す。ああ、吾輩の美しい毛並みが泥まみれに……。仕方あるまい、こうなればさっさと終わらせてしまおう。吾輩は速度を上げ、猛然と穴を掘り進めて行く。

 尼僧の悲鳴が聞こえた。不気味かつ顔色の悪い落ち武者の首はかなりの数であったからな。尼僧一人では手に余るであろう。吾輩は隣で動揺する娘を睨みつけた。

「……ありがとう、ここはお願いね!」

 吾輩の意思は伝わったようである。娘は自分の姉を守るために精神を集中させた。気合の声とともに、娘の手から赤い霧が飛び回る首に飛んでいく。攻撃呪霧とかいう薬師の術で、相手の攻撃力を落とす効果があるらしい。あんな霧をぶっかけられたら、そりゃ、気が削がれて攻撃に集中できないだろう。

「なんであんたがここにいるの!?夜に一人で歩き回っちゃ駄目でしょ!」

 ふらふら一人で出歩いてたあんたが言うなよ。先程の呪霧でこちらに気がついた尼僧が、首の包囲を切り破ってこちらに駆け寄ってくる。というか、吾輩もいるのだが。

「お姉ちゃんが心配だったから……」
「まったくもう……後ろから離れるんじゃないよ」
「うん!」

 美しい姉妹愛を横目で眺めながら、吾輩はひたすら掘り進める。……待てよ、吾輩はなんで土を掘っているのだ?大体、ここを掘っていれば何が見つかるのだ?

38 名前:吾輩は犬である5 投稿日: 2004/07/30(金) 00:45
 吾輩が疑問を浮かべながら土を掘っている間にも、戦局は動いてく。姉が妹の前に結界を張って立ちふさがり、妹がその影から支援している。だが、多勢に無勢。というよりも、こちらは年端も行かない娘が二人で、あちらは化け物が十数匹。あっという間に追い詰められていく。

 最高級の陶磁器が割れるような音(武田の館に忍び込んだ時に聴いたことがあるのだ)を立てて結界が割れた。いまや尼僧を守るものは無く、生ある者に対する恨みに駆られ、魑魅魍魎の牙が尼僧の体へと迫っていく。

 聞いたことの無い爆音が轟いた。凄まじい速度で飛来した何かが尼僧の喉を食い破らんとした首を貫く。木の葉が地面へと落ちるように、ゆっくりと生首が泥の上へと落ちていった。さらに続けざまに二度、轟く音と落ちる首。

「よお、苦戦してるな。愛しの我が娘達よ」
「親父!」
「お父さん!」

 二人の声が歓喜で弾む。あの親父を毛嫌いしていた尼僧ですら、それは隠しきれていなかった。姉妹の危機を救ったのは、子煩悩兼変態兼鬼畜兼助平兼自己正当化兼不精髭兼親父であった。まったく、助けにくるならさっさと来いよな。

 戦況は一変した。髭親父が盾となって姉妹を守り、隙を見てテツポウなるもので生首を落としている。妹が呪霧とカッシンなる傷を癒していく術で支援し、余裕のできた姉は紅蓮の炎で生首達を焼き蹴散らしていく。しかし、こんな時にすら薄気味悪い笑みを浮かべているぞ、この親父は。奇人兼変人でもあるのだろう。


 ……ん?土を掘り返していた吾輩の爪に何かが当たった。慎重に掘り出してみると、漆塗りの髪飾りが泥の中から姿を現した。……これか?

 吾輩の鳴き声に気づき、娘が近付いてきた。吾輩はくわえた髪飾りを娘の手に渡す。吾輩から髪飾りを受け取った娘は、大胆にも生首達の前にその身をさらす。泥にまみれた髪飾りを、天に捧げるように高くかかげた。

 吾輩や髭親父や尼僧が見つめる前で、それは浮かび上がった。まるで霧が立ち込めるかのように静かに、けれどはっきりと白い靄が現れる。やがて、それは人の形を取り……。

『ありがとう……』

 魂に直接伝えられたような、そんな女性の声がした。その声と同時に、飛び回っていた生首達の姿がかき消されたように薄くなっていく。辺りが明るくなり始めた頃、生首達も白い靄もどこかに消え、激戦の痕跡は土砂崩れの現場には存在しなくなっていた。だが、吾輩達が経験したことが夢でなかった証拠に、朝日を浴びてわずかに輝く髪飾りが、娘の掌の上で優しく微笑んでいた。


「この髪飾りは北信濃のとある豪族に伝わる品だな。先日、上杉との合戦で領地を奪われ、当主は討ち死にしたと聞く。たしか一人娘がいたはずだが……。武田を頼って甲府に向かう途中、土砂崩れに巻き込まれて、一族郎党もろとも埋められてしまったのだろうな」
「……あたしが聞いた声っていうのは」
「その娘のものだろうな。あの首も、無念さの余り狂ってしまった一族郎党の……」

 吾輩達は顔を出し始めた朝日に半身を照らされながら、甲府に続く街道を歩いている。姉妹のうち、妹は髭親父の背中で健やかな寝息をたてていた。尼僧は何か言いたげに沈黙していたが、やがて意を決したのか、顔をわずかに赤らめながら口を開いた。

「……ありがと」
「感謝するなら添い寝ぐらいさせてくれ」
「……こっちが素直になれば、つけあがってぇえ!!」

 既視感を感じた吾輩は首を振って歩みを速めた。背後で鈍い音がしたが、崩れ落ちる音はしなかったので、髭親父も耐えたのだろう。しかし、まだ寝息が聞こえるということは、あの娘はこの馬鹿騒ぎでも起きていないのか。

「……ときに我が愛しの娘よ」
「……なによ」
「手が早いのはいいことだが、男と契りを交わす時は父に相談してからに―――」

 ……今度は本気で殴ったようだ。それも錫杖で。付き合いきれないものを感じた吾輩は、嬉しげな怒鳴り声と小さな寝息を後に、さっさと甲府に戻ることにした。

39 名前:吾輩は犬である6 投稿日: 2004/07/30(金) 00:46
 吾輩は満腹感に浸っていた。いつものように茶屋の軒先で食事を奢ってもらっていたのである。あの夜から数日経つ。不幸な一族の亡骸は土砂の中から掘り返され、今は甲府の寺院で供養されている。

「もう行っちゃうの?」

 娘の寂しそうな声が吾輩の耳に飛び込んできた。惰眠を貪っていた吾輩は顔を上げ、三人の人物を見つめた。旅立ちの仕度を整えた髭親父とそれを見送る姉妹とを。

「他の子供達にも会わないといけないからな」

 姉妹の頭を撫でる髭親父の視線は限りなく優しい。吾輩は亡き父と母を思い出してしまった。不覚にも涙腺が緩むのを感じる。

「……今度は、いつ帰ってくるのよ」

 照れくささと寂しさを隠すように、尼僧は努めて不機嫌な声を出しているように、吾輩には見えた。

「ちょっと海の向こうまでいかねばならないんでな。一年か、二年か……」
「海の向こう?」
「……いいか、二人とも。今から言うことを、決して忘れるな」

 髭親父の真剣な顔は始めて見るな。この男、こんな顔もできたのか。

「お前達には、父親と母親から受け継いだ心がある。人の痛みを知り、それを同じように感じられる心が。時代や人に流されず、己をしっかりと持て。そして、この乱世を生きよ。……そうすれば、いつか、俺と再び出会う日も来るだろう」

 息を呑んで父親を見つめる姉妹を抱き寄せると、髭親父は二人の耳元で何事か囁いた。わずかな抱擁の余韻を残して、髭親父は二人を解放する。

「それじゃ、行ってくる。戻ってきたら、お前らの姉妹達にも会わせてやるさ!」

 そして、みんな一緒に、どこかで静かに暮らそう。髭親父の最後の呟きは低く小さく、人の耳には届かなかった。だが、聞こえてしまうのが吾輩の名犬たる証であろう。

「ワン公、俺の娘達を頼むぞ」

 仕方ない、頼まれてやろう。承諾の意を込めて、吾輩は一声鳴く。

「……気をつけて」
「いってらっしゃい!おみやげ買ってきてね!」

 姉妹と吾輩に見送られ、髭親父は去っていった。温かみのある笑みを残して。

 父親を見送って、姉妹が吾輩の傍に寄って来た。長椅子に腰掛ける姉と吾輩に寄りかかる妹。……寄りかかる?

「お耳〜、お耳〜」

 ひ、ひっぱるな!

「お鼻〜、お鼻〜」

 つつくな!さわるな!

「毛がふさふさ〜」

 ええい、いつ、誰が、吾輩の美しい毛並みを撫でることを許したのか!この娘、今日という今日はぎゃふんと言わせて

「ワンちゃん、はい、お団子」

 いただきます。

 吾輩に寄りかかって幸せそうに団子をほうばる妹と、それを優しく見つめる姉を横目で見ながら、吾輩は団子を口にしたのである。





 ……あ、肉もらってないぞ。



〜了〜

40 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/07/30(金) 02:07
>>葉桜氏
>>34-39
非常に  イイ  !!

と言わせてもらいました。
おもむろにageてみる。

41 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/07/30(金) 07:40
「疑惑の肩掛け」


「あれ?お前こんな所で何やってるんだ?」
船着場に着いた船から降りてきた男……服装は黒で統一されていて、覆面をしている。
闇に生きる忍者だ。
そして、船着場の桟橋の端に立っていて声をかけられたのは侍。
短い髪で、実直そうな雰囲気を持っている。
「今日、七夕だろ?」
「そうだな。で?」
「じ、実は……」
「あぁ、女か?」
顔を赤くしながら、もじもじとする侍をかすかに冷めた目で見つめながら、忍者は言った。
「っ!」
侍の顔がさらに赤くなって、首を激しく動かし始める。
「頷くのか否定するのか、どっちかにしろ阿呆」
深い溜息をつきながら、動揺しているとはいえ明らかに不審な動きをする侍を軽く小突く。
同じように船から降りてくる人々が怪訝な眼差しをしている。
「いや〜……可愛いんだよ」
「はぁ?」
動きを止めた侍は、頬を赤く染めたままで忍者を見る。
そのまま忍者の手を取り、笑った。
「渡すものがあってさ、ここにいるんだ」
「ちゃんと喋れ。でないと何の事か……」
言いかけて、忍者は向けられる視線の質が変わった事を敏感に察して周囲を見回す。
戦闘で、そして任務で鍛えた知覚力は並ではない。
まだ師には遠く及ばないけれど、それでも同年の中では飛びぬけているという自覚すらある程に
冴えていて、この力のおかげで窮地を脱した事も1度や2度ではなかった。
「何だ…?」
まだ周囲に居た人々の視線が、おかしい。
何か、妙な理解の色を浮かべて……何に納得しているのか、何度も頷きながら去っていく。
奇妙な光景。
そして、ふとその人々の視線を辿って……忍者は、その視線が自分と侍に向けられている事に気づいた。
(……?何かおかしいのか?)
首をかしげながら、侍に向き直って、その顔を見て、忍者はようやく……気づいた。
ぶつぶつと何かを呟く侍。
手は忍者の手を固く握っている。
頬は、朱色。
夢見るような、瞳。
良く見れば瞳の焦点は合っておらず、忍者を見ていない事は分かる。
だが…離れた場所にいる人々からこれを見れば、どう見えるのか……

「は、離せぇっ!!」
無理矢理手を引き離し、普段の忍者らしからぬ慌てた様子で侍から距離を取る。
それで、ようやく侍も我に返った。
「どうしたんだ?変だぞ、お前」
額に大粒の汗を浮かべて力無く頭を振る忍者。
思わず尻餅をついてしまった忍者に手を貸そうと、近づく。
「いいっ!いいから、今は来るなっ!!」
ちら、と周囲にいる人々を見て、人々が立ち止まってこちらを見つめ、何かを囁きあっているのを
確認して必死で侍を拒絶する。
「変な奴だな」
「お前に言われたくないわ!」
首をかしげながらも、忍者から離れる侍。
やれやれ、と立ち上がる忍者。
服についた土を払って、顔を上げたその時。
「で、さっきの続きだけどな?」

42 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/07/30(金) 07:40
目の前に侍の顔があった。
硬直する体。
吐息さえ聞こえてくるような距離。
「あの娘、巫女なんだけど……」
再び、顔を朱に染め始める侍。
照れながら笑うその動きは、怪しい舞にしか見えない。
周囲に起こるざわめき。
ギ、ギ、ギ、と音がしそうな動きで後ろを振り返った忍者の視線に入ってきたのは、真剣な眼差しで
こっちに見入る人々。
明らかに開かれた手で、顔を隠しているつもりになっている少女。
「こ、の……」
頭が見事に剃りあがった僧が、何故か羨ましそうな視線を送ってくる。
「たわけがぁぁっ!!!」
侍のはにかんだ笑顔が拳で歪み、その、幸せそうな顔のままで……宙を舞った。
数瞬の静寂の後、派手な水音が聞こえた。


「ったく!いきなり何しやがんだよてめぇ!」
頬を赤く晴らして、海から体を出して喚く侍。
「やかましい!お前のおかげで危うく誤解されかけたんだぞ!?それでもまだ生ぬるいわ!」
背中に差した刀に手をかけながら、負けじと返す忍者。
そんな2人を見て、周囲にいた人々はなーんだ、といったような表情で去っていく。
「誤解?意味がわかんねぇ事言ってんじゃねぇよ!」
「黙れ!お前が妄想に浸るのが悪い!」
しばらくの間桟橋の上と下で罵りあって、侍がくしゃみをしてようやく、2人は口喧嘩を止めた。
桟橋の上から手を伸ばし、侍を引き上げて、忍者頭をかいた。
「あー、すまん」
ずぶ濡れで忍者を恨めしそうに見る侍。
「これから、逢引だってのに……なぁ、何か体拭くものないか?」
服を絞って海水を服から出しながら、少し気落ちしたように問いかける侍。
「ちょっと待て。うーん…お、これお前の荷物か?これでどうだ?」
自分の肩掛けを探って、布が無い事を確かめた忍者は、桟橋にあった侍の大袋から長い布のようなものが
のぞいている事に気づき、それを取って侍に投げた。
そして、侍はそれが何かという事を確かめずに、濡れた頭を拭いた。
しばらくゴシゴシとその布を動かしてから、忍者に投げ返す。
「悪い……って……」
それを受け取った忍者。

43 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/07/30(金) 07:41
「気にするな。元々お前のもの……ん…?」
軽く肩をすくめて侍を見て、その動きが止まる。
侍は、忍者を見たままでその動きを止める。
2人の間を、風が流れた。
潮の匂い。
ガタガタと震えだす体。
誰かが砂を踏んで駆けてくる音が聞こえる。
侍は真っ青な顔で、目で拒否している。
忍者は、頭を振りながら必死に耐えようとしている。
「と……」
「共に、叫ぼ……うぜ…」
みしっ、と骨が嫌な音を立てる。
意志に反して体が動く。
侍は泣いていた。
忍者も泣いていた。
しかし、表情以外は楽しそうに、本当に楽しそうな、妙な踊りを踊っていた。
「待、待ちましたか?」
息を切らせながら、笑顔を見せる巫女。
侍の姿を確認して頬をかすかに朱に染めた。
そして、口を開こうとした瞬間、侍と忍者のひどく投げやりな叫びが、夜の闇を、切り裂いた……

「「俺達の愛は永遠だぜ!!」」

微笑んだままで凍りつく巫女の顔。
忍者はその場にがっくりと膝をつき、何かをうわ言のように繰り返している。
そして侍は、巫女に慌てた様子で何かを言おうとして……
「侍さんの……侍さんの、馬鹿ぁぁぁ!!」
派手な音。
情け容赦の無い平手打ちをくらって、その場に転がる侍。
顔を上げた侍の視界に映ったのは、泣きながら走っていく巫女の後姿。
伸ばした手は届く事なく宙を掴む。
「ち…違うんだ……」
弱々しい声で呟く侍。
その侍の肩をぽん、と叩く忍者。
その目には哀れみが篭って、優しい笑みが浮かんでいた。
肩に置かれた手を取り、立ち上がる侍。
忍者に向かって満面の笑みを浮かべて……

「殺す!絶対に殺す!!何て事してやがってんだてめぇぇぇ!!!」
「知るかぁっ!そんなに大事なものなら渡された瞬間に気づけ!!」
「大体なんだよ、その覆面!顔に自信がねぇんだろ?あぁん?そんなんだから女ができねぇんだよ!」
「忍者舐めてんじゃねぇぞコラァ!普段くのいちと逢えないからってひがむな!」


桟橋の上で、月明かりの下……
罵声とお互いを殴りあう音は夜が明けるまで続いたという……

44 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/07/31(土) 07:29
「彼岸」


「…行くのか……」
既に人々も眠りについている深夜。
門に現れた人影が、そこをくぐろうとした若い侍に向かって問いかけた。
侍の腰には2振りの刀。
鞘にはかなりの傷が刻み込まれていて、年季を感じさせる。
「――ええ。総ての決着をつけに――行ってきます」
門の壁に背中を預け、腕を組むその男に向かって侍は敬語でもって答え、歩く。
「俺が言えた義理でもないが……あの娘はそれを望んでいるのか?」
「多分、望んではいないでしょう…でも、俺が、望んでいるんです」
声は静かで、悲しみすら帯びた口調。
そしてその顔に浮かぶのも、切ない…微笑。
「そうか。無駄死にだけは……するなよ」
死は既に受け容れている。
瞳で語る侍に、もはや何の説得も無理だろう。
そう感じたのか男はあっさりと引き下がり、侍の傍へと歩んだ。
「餞別だ。受け取れ」
袋に包まれた棒のようなものを侍に渡す男。
2つのそれを受け取った瞬間、侍の顔に疑念の色が浮かぶ。
どこかで見たような……懐かしいような……そんな色。
「これは――師匠の?」
中を見て疑問の呟きを漏らす。
「あの娘の兄からだ。お前が持っていてもどこからも文句は出んだろうさ」
「!……あいつ、の……」
その太刀の元の持ち主に思い至り、侍は軽く目を閉じた。
何を思い浮かべているのか…そこには微かな微笑みが在った。
「国に迷惑がかからんように出奔したのはいい…だが、そんなボロボロの武器では
無駄死にしにいくようなものだ。新品ではないが、それくらいは我慢しろ」
「ありがとう――ございます」
震える声で言う侍の頬を涙が一筋、伝い落ちた。
思い出を吹っ切るかのように。
迷いを流して捨て去ってしまうかのように。
「俺も、護るべき者さえいなければ、な」

45 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/07/31(土) 07:30
無表情で語る男。
「帰ってきますよ、2人で」
愛した少女のものであった太刀を持ち、男に背を向ける侍。
男も、もう何も言わずに侍に背を向けた。
門に向かって歩き出す侍。
そして男は闇の中に溶け込むように…姿を消した。
「一緒に、帰ってこような……」
一度だけ振り返り、そう呟いて侍は門の外へと姿を消した……


「行きましたか…」
「あぁ。誰にも止められんさ。あいつを止める事ができる者は既にこの世にない」
辛そうな表情で吐き捨てて、傍らにいる男を見る。
僧衣に身を包み、悲しげに眉を顰めている。
「何と言っていましたか?」
「2人で帰ってくる、と言っていた」
「2人で……?しかし、あの娘はもう……」
「……もうすぐ、彼岸だからな」
「そんな……死ぬ為だけに、そんな事の為だけにアレの元へ行ったと?」
「そう言うな。アレに関わって…あいつはあの娘……お前の妹の心を手にする事ができた。
あの娘が死んだのは、あの娘とその仲間が愚かにも先走ったからで、その場に居なかったあいつが
責められる謂れは無い。だが、それをあいつは許せないのだろうさ。あいつが居た所で結果は変わらないに
したところで、共に生きようと誓った相手を先に逝かせてしまった事を悔いていたからな……今のあいつに
生きねばならぬ理由など欠片も残ってはいない…それ程に、あいつはあの娘を愛していた。
その証にしかすぎんさ。あいつが今、死ぬのは、な」
納得していない声色で男は言い放つ。
硬く握り締めて震える拳は男の心を語っている。
できるならば共に、勝ち目の無い戦いへと赴きたかった。
けれど、それをあの侍は許すまい。
見送る事しかできず、たった一つ許された事は……もうすぐ訪れる彼岸に2人を弔う事だけ。
「妹の事をそれほどまでに想ってくれているというのは、親代わりでもあった私にはこれ以上無いくらいに
嬉しい。けれど、妹の為に殉じるというのは……」
僧も唇を噛み、納得できないと態度で語る。
「だが力で押さえつけて行く事を止めた所で、あいつはその場で命を断つに違いないからな。死ぬ事を決めた
のなら、せめて死に場所を自由に選ばせてやる事しかできん」
どちらからともなく、夜空を見上げていた。
煌く星達を見つめながら……僧は、小さな嗚咽を漏らし始めていた。
「弔うのは僧であるお前の役目だろう?2人が迷わないように、頼んだぞ」
男が微かに震える声で僧に告げ、僧は涙を拭う事すらせずに何度も頷いた。
そして、男は再び空を見上げ……

「この、血生臭い世に…1人くらいはそういう男が居てもいいだろうさ……」

そう、呟いていた……

46 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/08/07(土) 06:50
「恋蛍」


風が吹いた。
熱気にまみれた風はぬるく、肌に触れたそれは安らぎはもたらさずに汗を呼ぶ。
汗で濡れた服は張り付いて気分を沈ませる。
巨木の下で佇み、そんな不快な夜風を身に受けながらもその場を離れない。
離れられなかった。
視界の中では緑色の優しい光が舞っている。
水の気配は無いのに、こんな山の中に蛍が舞っているなど……
最初はそう思った。
だが、すぐに思い直した。
こんなにも綺麗なのだから、理由などどうでもいいではないか、と。
時折強くなる気まぐれな風に揺られて、拡散する。
不規則に飛び回り、集まり、離れて、目に入る場所総てで繰り広げられる饗宴。
悲しかった。
心が張り裂けてしまうのではないか?
そう思う程に。
泣きたかった。
子供のように無邪気に、自分の心に忠実に泣いてしまえれば、この深く沈んだ心も少しは
晴れてくれるかもしれないのに。
涙で想いが洗い流せるのならば、そうしただろうと思う。
けれど、そんな事ができないのは知っていた。
でも、楽になれるのは分かっていた。
だから……余計に泣けなかった。
楽になるなんて、この想いを薄れさせてしまうなんて、自分に許す事なんてできなかった。
「そういえば、貴方も蛍が好きだったね」
呟いた瞬間に滲みそうになる視界。
その衝動に必死に耐えながら、愛した人の面影を探して空を見た。
満天の星空。
素直に溜息が出るくらいに美しい。

47 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/08/07(土) 06:51
綺麗な光を放つ星々。
月は欠けて三日月。
そして私の心も欠けていた。


「ここまでか……ここは俺達が食い止める!お前らは先に行け!!」
短くて、大した手入れもされてない…伸びるに任せただけの髪。
顎にあるのは無精髭。
幾つもの武具を作り出す腕は太く、たくましい。
けれど、その身を包む鎧には無数の大小様々な傷があって、良く見れば体のあちこちも
傷だらけだった。
「でもっ!」
嫌な予感。
もう逢えないという確信にも似た恐怖。
それを口に出す事で鍛冶屋に告げる。
「俺がそう簡単にやられるかよ。お前…と仲間を護ってきたのは知ってるだろ?そう簡単には
倒れやしねぇ」
にや、と自信に満ち溢れた笑みを漏らす。
その笑みが私は好きだった。
最初の出会いがどんなものだったのか……今ではもう覚えてはいないけれど、衝突ばかりしていた
事ははっきりと覚えている。
戦略なんて少しも考えていなかった。
けれど――仲間を護る盾になる――という言葉を果たさなかった事は一度だって無かった。
傷ついて、傷ついて、血を流し、その屈強な身体に痕を刻みながら。
ボロボロになっていく鎧を、これは俺が言を違えなかったという証だと照れ笑いをしながら修理していた。
そういう意味では学なんて少しも無かったと思う。
ただ愚直に、自分ができる事をやっていただけ。
衝突した時に、その事について言ってしまった事がある。
だけどこの男は……できない事をやろうとしてるんじゃねぇ。できる事をやって何が悪い?と返してきた。
あまりにも素直な正論。
その為に自分の身が傷ついていく事に対する躊躇いや後悔なんて、欠片も無かった。

――自分の身が傷つくのはいい。けど、仲間が傷つくのは許せねぇ。

そんな、子供みたいな無茶な理屈に何も言い返せなかった時に、私はこの男に恋していたのだろう。
それからも何度も衝突していたけれど、仲間からそれを「痴話喧嘩」と評されるようになるまでに
ほんの少しの時間しかかからなかったから。
鍛冶屋と侍、鍛冶屋と鍛冶屋ならば分かるし、ありふれている。
けれど私と男は、陰陽師と鍛冶屋。
陰陽師の防具は鎧ではないから、接点なんて殆ど無い。
そんな2人が互いを想うようになったのだから、それは珍しい事だったのだと思う。

48 名前:葉桜深月★ 投稿日: 2004/08/07(土) 06:51
自分もそんな事は少しも頭に浮かばなかったし、自分が恋をするのなら同じ陰陽師に属する男で、呪や印の
知識などを語り合える男だと思っていたから。

男女の仲なんて本人同士にしか分からない何かがあるもんだ

そんな、ありふれた言葉が身に沁みた。
それからは、戦いの最中に男の背中を見る事が嬉しくなった。
護るべき仲間に自分も含まれているという事実が、嬉しかった。
けれど、男が傷つく度に、自分が傷を治せる技を持つ薬師や僧でない事が悔しかった。
技を磨いた。
少しでも速く敵を屠れるように。
男が傷つく事が少しでもなくなるように。
何度も逢瀬を重ねて。
お互いに心を重ねて。
それは、幸せという感情。
離れてしまう事への恐怖。
国の為に戦う兵士である自分はただの女へと堕ちた。
それが分かっていながら……始まった戦への参戦の結果がこれだ。
夜に激しく戦いあって、疲れた両軍が刃を引いて一時の休息が訪れる……そう思った瞬間に現れた増援。
朝駆け、夜討ちは奇襲に分類されるもの。
正しく行われれば、戦の趨勢さえ決してしまうほどの力を持つ刃。
そして、その刃はこれ以上ないくらいに正しく行使され、自軍は崩壊した。
戦線を維持する事などできなかった。
どこにこれだけの余力があったのか……そう考えずにはいられないほどの数。
それだけ兵力を割いておきながら、互角の勝負をしていたのなら……最初から勝ち目なんて無かった……?
命よりも先に、心が折られていく。
恐怖を感じさせられた軍など烏合の衆だ。
大した抵抗もせずに陣が陥落していき、迫る敵は私達の徒党がいる陣へも雪崩れ込んできていた。
必死に耐えたと思う。
けれど、夜が明けて明るくなっていく周囲に見えるのは味方の兵の屍ばかり。
それはさらに戦意を奪って、止めを差す。
もう……逃げるしかなかった。
決断した時に発せられた、男の言葉。
「そう簡単にって……やられたら……やられたら終わりじゃない!」
唇を噛んだ。
男に、泣き叫ぶ自分なんて見せたくなかった。
でも言葉を封じる事はできなかった。
男の目に、笑みが浮かんだ。
「お前でもそういうふうに取り乱す事があるんだな」
「な、何を……」
辺りは喧騒に包まれているというのに。
今この瞬間にも絶命していく人がいるというのに。
私は熱くなった自分の頬に気づいて、無垢な少女のように赤くなっているだろう顔を背けながら言う。
こんな事をしている場合では無いのに。
そう考える自分に、男はさらに言葉を紡いだ。
「隠すなよ。可愛いぞ?」
「ば!…………馬鹿……」
今度こそ、耐えきれなかった。
火がついたような顔。
怒鳴ろうとして、怒鳴れなかった。
喧騒に飲み込まれるくらいに小さい声で罵倒するのが精一杯だった。
「うん、やっぱり可愛いぞ。可愛くて、勿体ないから、お前はここで死ぬな」
そんな熱なんて一瞬で冷めるような言葉。
何かを言おうとした口が塞がれる。
乱暴な口付け。
情緒なんて欠片も無くて、でも、甘くて。
一緒に……なんて言葉が出てきそうなくらいな魅惑。
「必ず帰る……なんて、約束はできねぇ。だから、待つな」
名残惜しそうな表情で身体を離して、男は言った。
答えを返すよりも早く、衝撃が身体を突き抜けた。
視界の隅に映ったのは私の腹部にある男の拳と、後悔なんてない、と笑った男の笑顔。
何かが聞こえて、意識は闇に落ちていった。


そうして、私は生き延びた。
自分の半身を失ってしまったかのような喪失感。
けれど私を男から引き離した仲間を責める事なんてできずに、独りで男と逢瀬を重ねた場所に来ていた。
あれからまだ日は経ってなくて、戦は続いている。
男がどうなったのか、全くわからない。
蛍が一匹、膝を抱える私の服にとまった。
ぼぅ、と光る。
それが綺麗で。
蛍が乱舞するこの場所があまりに綺麗で。
他にも色々と思い出はあるのだけれど、男との思い出と言えば真っ先にこの場所が思い浮かぶ。
夏という暑い季節にしか現れない虫達。
男は豪快で、男くさくて、夏という時に似合っていたからだろうか?
似ても似つかない蛍と男なのに、良く似ていると思ってしまう。
服にとまった蛍を捕まえて、そっと指先に乗せて、思いに耽った。

どれくらいの時間、そうしていたのだろうか…?
分からない。
分からないけれど、夜はもう明けようとしている。
蛍達も、強い光に追い立てられて、一匹……また一匹と消えていく。
だから私は立ち上がって、笑った。
男がどんな顔をするのか想像して、少し意地悪な笑みを浮かべて、呟いた。


「待たないよ。迎えに行くから、貴方が待ってなさいね」

49 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/09/02(木) 15:19
神主萌えです〜

いのちの初夜で
そろそろエロシーンがみたいなんて。。

50 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2004/12/03(金) 23:17
「戦国が、終わって」
お題は「平和」ってことで。
自分が好きな戦国武将の「平和」に関する逸話を持ってきました。

戦国時代も終わりに近づいた頃、天下分け目の大合戦が起こりました。
東は「徳川家康」が、西は「石田三成」が総大将の、
日本中の大名が東西に分かれて戦った「関ヶ原の戦い」です。

薩摩(現在の鹿児島県)の大名、「島津義弘」は西軍に味方しました。
なにぶん本国が九州の最南端なのに、関ヶ原は日本の真ん中。
余りに戦場が遠くて、味方の兵士はほんのわずかしか連れてこれませんでした。

それでは島津のお館様が大変じゃろうということで、
薩摩の侍たちは、自腹を切って旅費を作り、鹿児島から関ヶ原へ走りました。
ひたすら走り、一人、また一人と、フラフラになりながらも、
何とか決戦の始まる当日までに八百人ほどが関ヶ原に到着し、島津家は決戦に挑みました。

しかし、西軍には裏切り者が大勢いたため、関ヶ原の戦いは最終的に東軍が勝利を収めました。
敗れた島津軍は、何とか本国へ帰るため、徳川家の包囲を破ることになりました。
島津の侍たちの決死の中央突破により、主君「島津義弘」は辛くも関ヶ原を脱出しますが、
この時、千六百人いた島津軍は僅か八十人になっていました。
島津の多くの武将が、主君を逃がすために身代わりになり、散っていきました。

大阪から船旅を経て、何とか薩摩へ帰りついた侍の一人に、「中馬大蔵」という人がいました。
薩摩では、関ヶ原の激戦模様を後世に伝えるために、毎年、新米兵士たちに
関ヶ原からの生存者たちから、「あの戦いがどれほど恐ろしかったか」を語る会が開かれました。

「中馬大蔵(ちゅうまん・おおくら)」は、関ヶ原で多くの友人を失ったため、
関ヶ原の戦いについて新米兵士に語ることを拒みつづけていました。
しかし、時が流れ、遂に関ヶ原生還者は彼一人になって、とうとう中馬はこの会に出席しました。

多くの新人が中馬大蔵を見つめる中、彼は関ヶ原の思い出を語りだしました。
「・・・関ヶ原の戦いの時は・・・」
しかし、彼の言葉はそこで途切れてしまいました。
「・・・関ヶ原の戦いの時は・・・」
上手く言葉が出てきません。
そしていつしか、彼の両目から、大粒の涙がぼろぼろとこぼれてきました。
そのまま、その年の会は終了となりました。

その年の会に出席した新人たちは、口を揃えてこう言いました。
「今までのどの会の時よりも、関ヶ原のことが良く分かりました」

平和な時代を築くということは、決して、楽な道のりではありませんでした。
その痛みを知るということは、今も昔も、とても大切なことでしょう。
参考文献:池宮彰一郎(著)『島津奔る』

51 名前:群雄さむー 投稿日: 2004/12/06(月) 00:24
「平和の手触り」
俺は今日寺に来ている。目の前には静かに微笑む尼僧。いつも子供と遊んでいる姿を見かける綺麗で優しい僧で、よく相談に乗ってもらっている。
「今日は何の御用でしょうか?」
尼僧はお茶を差し出す。
「実は、、。」
俺は静かに口を開き、隣の敵国を平定し、我が国には平和が訪れたと言うがいまいちピンとこない事。一体平和とは何なのか。その答えを求めている事を話した。実際他の国がいつ手のひらを返し攻めてくるかわからない。滅ぼした国も復興を狙っているかもしれない。俺は様々な不安の中、確かな平和の定義が欲しいのかもしれない。
「なるほど。侍である貴方だからこそ平和への願望がより強いのかもしれませんね、、、。」
尼僧は微笑みを保ったままそう言って、お茶を飲む。そして何か思い立ったように急に立ち上がった。
「そうだ!少し買い物に付き合っていただけませんか?先日の戦で服がやぶけてしまって困っていたのです。僧とはいえ、やはりお洒落はしたいので♪」
尼僧はそう言うとにっこりと目を線のように細めたまま、そそくさと準備を始めた。俺は不思議に思いつつも、特に用事もないので付き合う事にした。

両替前はずいぶん活気に包まれている。人々の笑顔や元気な声が町を賑やかに彩る。売り子の人々から声をかけられ、尼僧は「あれでもないこれでもない」と買い物をする。もう結構な品を買っているのだが、、。時折こっちを向いて体に服を重ねて似合うかどうか聞いてくるが、何か照れ臭くて頷くだけになる。「俺の悩みは一体、、、。」そう思いつつも、尼僧に言われるがまま、心地よい時間を過ごす。
買った品を両替に預け、尼僧が付き合ってくれたお礼にと奢ってくれた団子を食べながら寺へと歩いた。寺に着くと、子供たちが尼僧の帰りを待っていた。
「あ!おねーちゃんおかえりー。あそぼー。」
子供の声に尼僧はにっこり笑い手を振る。
「あらあら、子供たちを待たせてしまってたみたいですね。たまには一緒に遊んでやってくださいまし。」
俺が断る前に尼僧は俺の手をとり子供たちの方に駆け寄っていく。俺はしかたなく一緒に遊ぶ事にした。子供は少々苦手なのだが。
しばらくは「かごめかごめ」や「かくれんぼ」をしていたがさすがに疲れて、俺は子供たちと少し離れて座った。尼僧と子供たちは花で冠を作っている。
やがて尼僧が寄ってきて隣に座った。
「いかがでしたか?今日一日。」
相変わらず微笑みで糸のようになっている目をこちらに向ける。
「少々疲れましたが、楽しかったですよ。」
「ふふ、だいぶつれ回しましたからね。でもきっとこれが平和なんですよ。」
尼僧は遊んでいる子供達に目を移し言葉を続ける。
「町の人が楽しそうに笑っていて、子供達が元気に遊ぶ。少なくともそこには不安なんて見えません。貴方は平和の定義を知りたいとおっしゃいますが、私は平和は定義などではなく感触なんだと思います。幸せを手に掴むなんて言葉がありますが、それと同じで平和も頭で考えるのではなく感じるものなのではないでしょうか。」
「頭で考えるのではなく、感じるものか。」
俺が尼僧の言葉を噛み締めていると、一人の遊んでいた女の子がこっちへ寄ってきて、俺と尼僧に花の冠を差し出してにっこりと笑う。俺は尼僧と顔をあわせた後、女の子に笑顔を向けながら冠を受け取り、女の子の頭を優しく撫でた。女の子は照れ臭そうに笑っていた。尼僧も相変わらず微笑んでいる。そこには確かに平和の手触りがあった。



おわり。

52 名前:山城坊 投稿日: 2005/01/12(水) 00:50
最近あまり投稿が無いようで、、昔ちょっと書きかけたものを加筆して
恥ずかしながら投稿させていただきます。


「敵襲」の物見の大声に飛び起きたのは空が明るくなりかけた卯の刻の頃であった。
部下の四人の組頭たちを叩き起こし、肌を刺すような寒さの井戸水で顔を荒い、
大急ぎで腹巻と銅製の額宛に修繕弓を身に付けて持ち場に向かうと既に漆黒の小直衣を
身に纏った上司の鷹司志乃は物見からの指示を受けていた。すらりとした長身に烏帽子
を被るとさらに背が高く見え、やや低く力強い声で物見に答えるその陰陽師の姿は
面長で細い目をした美貌とも相まって戦場では威厳すら感じさせた。

物見の指示によれば美濃勢の妻木宏忠隊と思わしき軍勢が砦の近くを進軍中という
報告を可児才蔵隊は受けており志乃の足軽隊は同じ可児隊の別の足軽隊と共に
この場に止まって防戦しながら援軍を待てとのことであった。
 物見が去り、志乃が真五郎に向かって何かを言おうと口を開いた瞬間、轟音が
辺りに響き、次いで鬨の声が鳴り渡った。
「真五郎、納屋の上へ」
と志乃は言うや否やはしごを伝って、その裾から白いふくらはぎが覗くことも
全く気に止めずに素早く納屋の屋根に登った。真五郎も慌ててそれを追うと
切通しの入り口で味方足軽隊が既に敵と長槍を交えつつあった。
 妻木宏忠といえば名の知れた斉藤勢の侍大将であり、五百の兵を率いているとの
報告であった。可児隊も五百の軍勢であったが可児隊の守る砦を守るためには
隣接する峠の隘路を抑えておく必要があり、志乃を大将として二百の兵を割いて
いたのであった。ところが不意の奇襲を受けたため、前方に位置していた味方部隊は
既に押されており、支えきれなくなるのも時間の問題であるように見えた。

53 名前:山城坊 投稿日: 2005/01/12(水) 00:57
「真五郎、じきに味方がこちらに退いてくるでしょう。その時私の術を合図に一斉に
矢を放ちなさい。それまで決して動くのではありませんよ。」
「はっ」
真五郎は下知を受けて自らが率いる二十名の弓隊に合流し、柵の後ろから戦況を
見つめた。本隊の援軍が無ければこの状況を押し返すのは難しい。退いて砦の本隊と
合流しても良いようにも思えたが志乃にはその気が全く無いようであり、真五郎は
不吉な予感にかられていた。真五郎の敬愛する志乃は若い女もののふでありながら
与力に抜擢された優秀な人物であったが、それが故か気負いすぎて無理をする所が
あった。真五郎だけでなく上司の才蔵ですらも志乃を女だてらに剛の者であると
評価しながらも心配しているとのことであった。

 劣勢ながらも一進一退の攻防を繰り広げていた味方の前線であったが、突如敵方の
後方の空中が歪んだかのように見えた後、豪風が味方に向けて吹き荒れ、大きな木の枝や
岩などあらゆる物が味方前線に吹き寄せた。どうやら敵の陰陽師が放った風方術で
あるようだ。この一撃で混乱した味方前線右翼が崩され、敵が鷹司隊の守る陣地に向かって
進み始めた。幸いにも味方の前線部隊は潰走せず、隊伍を保ったまま退いてきている。

 甲高い詠唱の声が後方から聞こえて振り向くとなんと志乃が結界を張り、納屋の上で術
の詠唱を始めていた。真五郎は驚愕した。一応部下の二人の侍に竹束を持たせて護衛させ
てはいるが何も納屋の上でなく、柵の後ろで術を唱えても充分敵に届くではないか。
志乃は敵の矢玉の格好の的となっており既に侍の着ている鎧や竹束、さらには志乃を守る結界
にも矢が何本か刺さっていた。心配ながらも真五郎は配下の弓隊に構えの合図を出して
采配代わりの琵琶の撥を握り、矢を放つ合図を待った。

54 名前:山城坊 投稿日: 2005/01/12(水) 00:59
とりあえず今日はここまで。。
続きは後日に(まだ見直し中)
やっぱエロはあったほうがいいでしょうかね^^;
書けるのか謎ですが;;

55 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2005/01/14(金) 12:53
続きキボンヌ

56 名前:ふむ 投稿日: 2005/01/19(水) 05:22
鎮撫。

57 名前:あ〜っと 投稿日: 2005/01/19(水) 05:24
↑これで。

58 名前:山城坊 投稿日: 2005/01/20(木) 08:29
 空気が熱を帯び、上空を舞っていた呪符に火がついたかと思うと何故か炎の壁は
敵に向かわずに右手の岩壁に向かっていった。そして岩壁に衝突すると岩壁から隘路の
中央にいる敵軍に向かって何倍もの大きな炎が放射された。思わぬ横からの攻撃に敵はあわてて逃
げ惑う者、火にかかって地面を転げ回る者など混乱を見せた。
「放てぇ」
真五郎が撥を振り上げて怒鳴ると同時に矢が一斉に放たれて敵兵の鎧に突き刺さる。とっさに
琵琶を背中の振分袋から取り出して「風の唄」を真五郎はかき鳴らした。森の精霊や神たちの
ざわめきを瞬時に呼び起こし、かまいたちを起こして敵を襲う神職ならではの術である。
敵方の陰陽の風方術の威力にはとても及ばないが、怒涛の攻勢に敵の動揺は深まった。

 これを受けた志乃は全軍を前線に投入し敵を押し返した。さらにこのとき後方から可児
才蔵自らの率いる本隊が駆けつけて攻撃に加わり妻木の軍勢を退却に追い込んだのであった。
志乃は腕に軽い矢傷を負っていたが、味方の損害は軽微で済んでいた。

 結局尾張に侵入していた斉藤勢は妻木宏忠と可児才蔵の部隊同士の小競り合いがあった
以外には戦らしい戦もなく、犬山城近辺の村落に火をかけたのみで美濃に退いていった
のであった。信長は小牧山に数日陣を構えて周辺の慰撫を行った後、那古屋に帰還し、
今回の軍役は終了したのであった。

 真五郎が志乃が住む屋敷を訪ねたのは軍役が終わった数日後のことであった。
真五郎が志乃の屋敷に出向くのはこれが初めてのことであった。

59 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2005/05/11(水) 16:43:16
久しぶりにきて見ました
最近はあまり投稿がないようで寂しい限りです

未熟者ですが、これ置いていきますね
(´・ω・`)っ琵琶御前

60 名前:琵琶御前 投稿日: 2005/05/11(水) 16:46:34
大木の枝先に黄花を揺らし
広く遠く見つめ生き続け幾年
根を伸ばす大地、見渡せる場所までが私のすべて

人の手にわたりそれからまた幾年
紅木と呼ばれるようになり削り出された時、私の心は音を奏でる琵琶に残った。

彼は私を愛してくれた
削るその一瞬も、絹の弦を張りつまびく時も。


春の日は春を唄い
雨あがりに虹を想い奏で
肩に腕に抱かれたくさんの地をまわった


年老いた彼はどこかを目指していたようだった
目的のある旅は今までになく、広がってゆく世界に胸を躍らせた。
立ち止まっては私を抱え、長い年月でよりいっそう繊細になった指使いで弦をつまびく
私に琵琶としての命を宿した、若きあの日と変わらぬやさしい手で。

ある日彼は私を奏でなくなった。静かに横になり休むことにしたのだ。
―どうかおまえをあの場所へ― 眠る前に一言つぶやいた。

望むのならそこへ行こう
私自身を抱く腕と、私を運ぶ足を持って。

春の日は春を唄い
雨あがりに虹を想う
人の姿をかたどり、かつてあの男がそうしたように。

61 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2005/05/11(水) 16:55:01
とある曲を勝手にテーマにさせていただいて書きました
紅木琵琶自身の長い年月です

|x`;)

|彡サッ

62 名前:201 投稿日: 2005/05/13(金) 02:36:53
大変ステキ! ああ、もう、どうしよう!

63 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2005/05/16(月) 13:38:41
暇なので、ものかきなどしてみますた。
誤字、脱字、矛盾点などは見逃してくだせぇ つд`)

64 名前:fire sign 投稿日: 2005/05/16(月) 13:39:29
血生臭い匂いが辺りに立ち込める。無数の屍。どこからか聞こえる剣戟の交わる音。
合戦。それは自分の国の栄華の為、あるいは自分の名誉を高める為、あるいは欲望に身を任せて殺戮を楽しむ為。
それぞれが自分の「信念」を抱き、それに向けて進み、迷い、何かを得て、失っていくもの。
ここにも一人、道に迷った者がいた。

「はぁはぁ・・・」大きく、肩で息をする一人の侍。
周りには1人の仲間と、敵の屍と、今にも折れそうな、自分の所属している家紋が記された旗。
(どうする?)侍は心の中で自分に問う。
この陣を取られれば、旗色はたちまちに急変し、圧倒的不利な状況になってしまう。
かといって、今は頼れる援軍も無い。
それは、一瞬の隙だった。
もはや勝ち負けは決まった。と思われた合戦だったが、同盟国の突然の謀反。
昨日の味方は今日の敵―――
しかし、その関係が例外であることを示す存在がここに一つあった。

「どうした・・・もんかねぇ・・・」
辺りに敵の気配が無くなって、唐突に口を開いた鍛冶屋。
「さぁな・・・こっちが聞きてえ位だよ・・・」
鍛冶屋の問いに更に問いで返す侍。
鍛冶屋のつけている家紋は、謀反を起こした同盟国の物。しかし、鍛冶屋はその意に反して、まだ侍の国の援軍として戦っていた。
二人は、まだ腕が未熟な時からよく共に狩りをしてきた仲間だった。
国こそ違えど、鍛冶屋と侍、仲間を護るという職業から気が合い、共に成長してきた。
「援軍は望めない―――か、まぁ、援軍で来たあたし等の国が裏切っちゃあ元も子も無いだろうけどね」
ははは、っと軽く笑い飛ばしながら、手に持っていた銃を置き、自分の荷物袋に手を伸ばし、そこから修理道具を取り出した。
「ほら・・・装備貸しな。大分痛んでるんだろ?」
「ん・・・悪い」
侍は自分の太刀と、具足と兜を鍛冶屋に手渡す。
すると慣れた手つきで鍛冶屋は修理を始める。
「それで・・・本当にどうするんだい?」
修理をしながら、先ほど流されてしまった問いを改めて侍に問う。
「・・・・・・」侍はうつむいて、重いため息を吐いた。

65 名前:fire sign 投稿日: 2005/05/16(月) 13:40:04
そうなのだ、今は何とか持ち合わせの戦力である程度の陣を守っているが、それも次第に崩れていく。
とてもじゃないが2国同時相手にするほど戦力に余裕が無いのは自分がよく分かっている。
逃げ出せば、自分は臆病者と言われるであろう。
しかし、自分もこの国の家老。お館様に忠誠を誓い、それを信念にここまで進んできた。
そうそう易々と投げ出せる程の信念ではない。しかし、このままでは敗北は必須。
そうなれば、自分の命すら危うい。
突然、頭を大きく振った侍。
(何を馬鹿な考えを)
自分は国の為に尽くすと決めた存在。国の為に、この命の火が消えるのであれば、それも本望。

「俺は・・・戦い抜くよ」
その言葉が侍の口から発せられた瞬間、鍛冶屋の動きが止まった。
「正気かい?こんな状況じゃ・・・無駄死にするだけだよ!?」
少し怒りを帯びた声で鍛冶屋が言う。
「ああ、俺はこの国に忠誠を誓った人間だ。死など恐れぬ」
「あんた・・・本気でそんな事を考えてるのかい!死んじまったら何も出来ないんだよ!?」
恥ある生より、誉ある死を決意した侍に向かって、鍛冶屋は怒鳴る。
「なぁ・・・あんたとあたしは長い付き合いだ。あんたが信念を簡単に捨てれるほど安い男だとはあたしも思ってない。
だけどね・・・・こんな状況でまだそんな信念を貫いたとしても結果は見えてるんだよ!」
「・・・だとしても、それは俺が選んだ道だ。他人に決められるよりずっといい道だろう・・・?」
鍛冶屋の言っていることも、間違いじゃない。だが自分は自分の道を行く。決意のある目で、鍛冶屋を見る。

再び、鬨の声が聞こえる。敵の援軍が向かってきているようだ。
「さ・・・ゆっくり出来る時間は終わりのようだな・・・」
侍は、うつむいている鍛冶屋の手から、自分の装備を取ると、それらを身に付けていく。
「お前は・・・自分の国へ戻れ。わざわざこんな所で死ぬような命じゃない」
新品同様に修理の行き届いた具足を身に付けると、手持ちに残っていた強壮丹を全て飲み、太刀を構えて敵の援軍に備える。
「・・・野郎・・・」
それまで、うつむいたままだった鍛冶屋が、ぼそりと何か呟く。
「え?・・・ぐぁ!」
侍が聞き返そうとした瞬間、侍の後頭部に鋭い痛みが走った。
「馬鹿野郎だよ、あんた・・・本当に」
まだ兜は被っていなかった侍は、後頭部の衝撃に耐え切れず、倒れてしまう。そこには銃の柄の部分で侍の頭を殴った鍛冶屋が居た。
「おま・・・なに・・・を・・・」片目を閉じながら、歯を食いしばりながら侍が聞く。

66 名前:fire sign 投稿日: 2005/05/16(月) 13:40:31
「あんた・・・残される立場を考えたこと無いだろ?」
倒れた侍の顔に、自分の顔を近づけながら、鍛冶屋は囁く様に言う。
「あたし・・・あんたの事好きだよ・・・死んでほしくない」
鍛冶屋の顔には、涙の後がついていた。それは侍の決意を聞いたときに溢れたものなのだろう。
侍は何かを言おうとするが、口がぱくぱくと、開くだけで声が出ない。
鍛冶屋は、その口を塞ぐように、自分の唇を侍の唇に重ねた。
少しのキス、それは二人にとって永遠とも感じられた長い時間。
そして、鍛冶屋はすぅ、っと唇を離す。
へへっ、と照れ臭そうに笑う鍛冶屋。
「安心しな・・・あんたが目が覚めた時は、何もかも上手くいってるから・・・今は休みな・・・」
鍛冶屋はそういうと、侍の瞼に自分の手を乗せて、なだめるように瞼を閉じさせる。
侍は、その心地よさに、繋いでいた意識が遠ざかっていった。
「あんたが国を守るなら、あたしはあんたを護る」

次に侍が目を覚ましたのは、見慣れた自室の布団の中だった。
がばっ、と体を起こす侍。体は包帯だらけだが、起き上がれるということは致命傷は無いようだ。
「あ、気がつきましたか?」側にいたのは、自分の部隊の部下の薬師。
「俺は一体・・・何があったんだ!?」
侍は自分が生きていることに驚愕しながら薬師に聞く。
「え!?あの・・・私たちが隊長の陣に援軍に向かったとき、隊長が陣の中で一人倒れていたので・・・」
突然の質問に戸惑いながら、答える薬師。
「なんだって・・・合戦は!?どうなったんだ!」
「は、はい。それがどうやら謀反した同盟国の総大将が誰かの手によって討たれたとのことで、混乱に乗じて一気に押し切りました」
「ま、まさか・・・」
断片的に思い出した記憶、気絶する間際の鍛冶屋の言葉。
思い出した途端、侍は立ち上がって何処かに走っていこうとする。
「あ、駄目ですよ!まだ体が・・・」
薬師の言葉など耳に入れず、侍は自室を出て行ってしまった。

67 名前:fire sign 投稿日: 2005/05/16(月) 13:40:59
侍は走った。城を出て、町を出て、甲斐にある茶屋に着いた。
この茶屋は、侍と鍛冶屋、そしてその仲間がよく集う茶屋だった。
侍は中に入っていく。そこに見慣れた顔の神主が椅子に座って茶をすすっている。
侍の気配に気づいたのか、神主は振り返る。
「あ、貴方は・・・」
神主は驚いた表情で侍を見つめる。その神主が付けている家紋は、鍛冶屋の所属していた国のものだ。
こいつなら何か知っているかもしれない。そんな考えを持った侍はここまで来たのだ。
「あいつを・・・鍛冶屋を・・・知ってるか・・・?」
息を切らせながら、侍が聞く。
「・・・・・いえ」
神主は見つめていた目を逸らせると、うつむいてしまう。
「そう・・・か・・・」
神主がうつむくと、侍もまたうつむいてしまった。少しの沈黙の後、神主が口を開いた。

「・・・先の合戦、わが国の総大将が何者かの手によって討たれ、その時生じた混乱で、貴方の国に敗れました」
「ああ、部下から聞いた・・・」
「・・・総大将が打たれる寸前、鍛冶屋が謀反行為に意義を申し立てに行ったのを、私の隊の部下が目撃しています・・・そして、幾分もしないうちに銃声が・・・」
「・・・・・・」
「私の部下は急いで本陣の中に戻ると、何人かの護衛兵と、従者達に囲まれながら、胸から血を流して倒れている総大将の姿があったそうです」
「やはり・・・」
予想してたことが、事実になってしまった。侍は落胆の色を隠せなかった。
「・・・そこに鍛冶屋の姿は既に無く、今もその行方を眩ませたままです。我が国では、鍛冶屋をお尋ね者として、捜索をしています」
「分かった・・・邪魔したな・・・」
侍は振り返って、足取りを茶屋の玄関へと向ける。その足取りは、重い―――。
神主は何も言わず、その侍が出て行くのをただじっと見つめていた。

68 名前:fire sign 投稿日: 2005/05/16(月) 13:41:21
侍は、気がつけば広い野原に立っていた。
そこは山が近く、いい眺めの景色が写る。
(この場所は・・・よくあいつと来た場所だ)
そう思いながら侍は、青々しい草の上に、寝そべる。
(あいつ・・・よく口笛吹いてたっけなぁ・・・)
鍛冶屋の吹いていた口笛を、思い出せる限りの音で自分も真似して吹いてみる。
吹いている風にさえかき消されてしまいそうな小さい、囁くようなメロディー。
侍は、自分の体を起こして、腰に下げている太刀を手に取るってみる。
そこには、鍛冶屋の名前が刻まれている。
それは侍の誕生日に、何も出来ない自分が唯一できる事、っと言って鍛冶屋が侍に渡した太刀だった。
鍛冶屋の魂が込められた太刀。それは業物と呼ぶに相応しいだろう。
(なぁ・・・どうしたらいい・・・?俺は・・・)
太刀を抱きしめるようにして、涙を流す侍。
その時、一陣の風が吹いた―――。

その風はまるで侍に呼びかけてくるように、侍の頬を撫でる。
――――何を迷っているんだい?
(!?)
心に直接、聞こえてくる鍛冶屋の声。
――――あんたは、自分の信念のままに動きゃいいじゃないか
(だが・・・俺はその結果、大切なものを失っちまった・・・・)
――――は。あんた、自分の信念が信じれないのかい?命を賭けてまで貫いてきたその「意地」を
(・・・・・)
――――それに、誰が死んだって?
(!!)
その通りだった。鍛冶屋の死は誰かが確認した訳ではない。
――――微かでも、見えなくても、あんたの中で火が揺れているじゃないか。信念という火が。
(ああ・・・)
――――そいつを前みたく、大きな火にして輝かせておくれ。
(そう・・・だな。そうだよな!)
侍の目に、再び固い決意が生まれる。
――――ふふ、その目だよ。あたしが惚れちまった目は。

す、っと立ち上がり、体全身で風を感じる侍。
――――少し、長くなっちまいそうだが、あたしを待っててくれるかい?
「ああ、待ってるよ。お前を信じて・・・な!」
叫ぶように、声を出して侍は言う。
――――あたしは、いつでもあんたの側に居るよ――――
最後に、鍛冶屋の声が確かに心に響いた。
青空の下で、侍は自分の見つけた火の印を頼りに、「信念」の道を進んでいく。
口笛を吹きながら――――。

69 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2005/05/16(月) 13:46:07
読みずれ―・・・。未熟なんで勘弁してくだせぇ・・・。
とある曲つーか・・・タイトルがまんまそうなのですが・・・。
でわ・・・(´・ω・)ノシ

70 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
;y=ー( ゚д゚)・∵.

71 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2005/12/20(火) 00:37:50
つまんね

72 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2006/03/23(木) 03:29:26
いいねいいね
そろそろ新作読みたいおー

73 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
;y=ー( ゚д゚)・∵.

74 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
;y=ー( ゚д゚)・∵.

75 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
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76 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
;y=ー( ゚д゚)・∵.

77 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
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78 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
;y=ー( ゚д゚)・∵.

79 名前:;y=ー( ゚д゚)・∵. 投稿日: ;y=ー( ゚д゚)・∵.
;y=ー( ゚д゚)・∵.

80 名前:マーシー 投稿日: 2007/01/13(土) 05:33:50
まあ世の中色々あるよ。
つーか精子が売れるってしってた?
もう3回ぐらい売りますたぁ。。
ttp://green55.org/eki-kai2/

81 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2007/12/15(土) 07:03:05
kasoしてるね(つ_;)

82 名前:miu 投稿日: 2007/12/15(土) 07:33:10
過疎してるのでカキコも
お友達だった人たちをモデルにして書きます。
名前をちょびっと変えて書きますが
「これうみても俺じゃんw」って気付いても
そこは大人のスルーでお願いします^^

83 名前:miu 投稿日: 2007/12/19(水) 11:53:29
〜第壱の章〜「出会い」

「これで6匹目ね。」
うしろ髪を大きく上の方で結わえた女忍者は、そう言ってたった今絶命したばかりのネズミの尻尾を根本から切り取る。
不思議な行為に見えるが、この戦国の世ではよく見られる光景である。

城下町の周りには、町から出されるゴミを餌にネズミや蛇が集まってくるもので、それらの動物は、疫病や家畜への被害など人に害する影響を与える事がある。
城主は、こういった動物の「狩り」を各よりあいがしら寄合頭に推進するように勧め、各寄合頭は所属する者達にこの「狩り」を命ずるのである。
そしてこのネズミの尻尾は、退治した数を寄合頭に証明するものとなる。

「もういないかなー?」
女忍者は辺りを見まわす。先ほど退治したネズミの死体が近くにあるくらいで、あとは特に「狩り」の対象になるような動物は見当たらない。
ネズミの尻尾を上刺袋に入れ、今度は蛇が出るという森の近くまでやってきた。
この女忍者の名は「かえで楓」
最近、ここか い甲斐の国の忍者寄合所に仕官したばかりの新米である。
この世の寄合所には八つの職業があり、忍者もその一つである。

 主君の為に忠誠を尽くし、合戦場にて刀を振るう「侍」
 仏の教えを万国に広め、信仰心にて民を救い導く「僧」
 八百万の神々を敬い、人々に神の加護を与える「神職」
 武器、防具を鍛え、また自らの肉体をも磨く「鍛冶屋」
 数百の種類の植物から、あらゆる薬を作り出す「薬師」
 禁呪の五亡陣を用い不可思議な技を編み出す「陰陽師」
 その身の軽さから諜報、隠密行動を得意とする「忍者」
 破天荒な立ち振る舞いで戦国時代を闊歩する「傾奇者」

その中から楓は忍者という職業を選んだ。
特に決めていた訳ではないが、小さな頃から手先が器用で身のこなしが軽やかだった楓は、皆に進められるまま忍者の道を歩んだ。
自分としては、忍者は嫌いではない。
いや、特に気にしていないと言った方が正しいであろう。
楓は根っからののんびり屋で日々楽しければ良し、という女子であった。
楓にとっては、食べていく手段として忍者の装束をまとっているだけなのである。

84 名前:miu 投稿日: 2007/12/19(水) 11:56:07
森に近づいた楓は、くりくりとした瞳で辺りをうかがった。
木々のざわめきの他は特に何も聞こえず、ましてや「狩り」の対象になるものもいない。
「今日はもう帰ろうっと…あんまりとれなかったなー」
あきらめた楓が帰りかけたその時…
森の静寂を破って悲痛な女の悲鳴が聞こえてきた。
とっさに声のした森の中へ駆け込む楓。

目の利く楓はすぐにその悲鳴の主を見つけた。
綺麗な栗色の髪に薄地の紫布衣をまとったその女は、小さな背丈には不釣合いな長い錫杖を手前に突き出し、一生懸命に何かをけん制している。
歳は楓と同じくらいであろうか。
楓が彼女の視線の先に目をむけると、そこには猛り狂った一匹の野犬がいた。
野犬とはいえ、かなりの体格をもつそれは、楓よりも一回りも大きい。
良く見ると彼女の綺麗な脚から一筋の血が流れている。野犬に噛まれたのか、
苦悶の表情を浮かべながら脚を引きずり逃げようとしている。
しかし野犬との距離は徐々に狭まっていき、いまにも襲いかかからんとしていた。

「危ない!」
とっさに楓は懐から手裏剣を取り出すと、野犬にむかって投げつけた。
本来なら手を水平に滑らすように敵を討つのが正しい手裏剣の使い方だが、
新米の楓の場合はまさに投げつけた。という言い方が正しかった。
石ころのように投げたそれは野犬に当らず、近くの木に当たり、
軽い金属音とともに落ちた。
その行動により、野犬はこちらに気付いたようで、楓に向きをかえ襲いかかってきた。

ネズミや蛇などの小動物しか相手にしてない楓にとって、野犬は大変な強敵であった。
最初の一撃をかろうじて身をよじりかわしたが、肩の装束の一部が破れている。
野犬の鋭い爪に当ったようだ。

85 名前:miu 投稿日: 2007/12/19(水) 11:58:06
二撃目が来た。
かわそうとしたが、足元の木の根に足を引っ掛け転倒してしまう。
尻餅をついた楓に野犬の鋭い牙が襲いかかる…もうダメ…そう思った瞬間だった。
ギャンッ!と言う泣き声と共に野犬の足が止まった。
接着剤でもつけたかのように、足が地面から離れない。
野犬は必死にもがき、その呪縛から逃れようとしているが一向に離れる様子は無い。
「今よ!早く!」
見ると先ほどの紫布衣の女が手で何かの印を作っていた。

 ―陰陽師―
 ―禁呪の五亡陣を用いてあらゆる不可思議な技を生み出すー

聞いた事があったが、実際にその技を見たのは初めてだった。
「早く!呪縛がとけちゃう!」
再び辛そうな女の声が響く。
その声でハッと我にかえった楓は反射的に小刀を力いっぱい野犬に突き立てた。
野犬の断末魔の長い叫び。野犬は地面がら足が離れないままその場に崩れ落ちた。

「倒した?」
思わぬ強敵を倒せたことに放心状態の楓は、倒した野犬を見下ろし立ち尽くしていた。
そこに先ほどの女陰陽師が抱きついてきた。
「ありがとぉー!ほんっとにありがとぉー!」
泣きながら楓にしがみついている。
抱きつかれて本当に背丈が小さいのがわかる。楓も背の大きい方ではないが、この女陰陽師は更に一回り小さかった。
「あなた忍者?」女陰陽師が人なつこい笑顔で聞いてくる。
「う、うん。あなた陰陽師さん?」
「うん。そうだよ。」陰陽師とわかってくれたのが嬉しいのか喜んで答える。
「あ、怪我は大丈夫?」
楓が陰陽師の脚を見ると、太股の部分からはまだ血が流れていた。
「ん、ちょっと痛いけど平気。」女陰陽師の顔が少し曇る。
平気な怪我ではないのは素人の楓が見てもわかった。早く手当をしなければ。
「とりあえず森から出なきゃ、また野犬が来るかもしれないし…」
そういって楓は女陰陽師に肩を貸すと森の中を歩き出した。

肩を貸して本当にきゃしゃ華奢なのがわかる。よくここまでこれたものだ…
「どうして森の中にいたの?」
楓が当然の質問をした。
森の中は先ほどの野犬の他、大コウモリや毒蜘蛛など危険な動物が頻繁にいるのが常識なのであり、通常の人間ならば滅多に脚を踏み入れない領域なのだ。
「うるし漆を採りたくて…ごめんなさい…」うつむいて言う。

陰陽師は漆や炭、ご おう午黄やゆうたん熊胆などという自然の材料を採取し、生産を行うという仕事も寄合所の仕事の一つとして命令されている。聞けばこの女陰陽師もまだ新米だという。

「もっと安全な場所で採れる所あるよ?」楓が言うと、
「ほんと!?連れてって!」女陰陽師は急に笑顔になって言う。
「うん。怪我がなおったらね」その笑顔が可愛くて楓も釣られて笑った。
「あ、名前言ってなかったね。あたしは楓」楓は自己紹介した。
「あたし由貴。よろしくね、楓ちゃん♪」

86 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2008/01/12(土) 14:15:37
イラストと、ROネタで長編Webマンガを連載しています。
SSと絵の日記もマイペース更新中です。
itsuki01azn.blog18.fc2.com

87 名前: 投稿日: 2008/01/14(月) 19:00:55
真心・・いじめ撃退法

88 名前:とある信Onユーザー 投稿日: 2008/01/21(月) 16:00:48
最強の敵の倒し方
エリザベスがどうしても倒せません。
メギドラオンで9999ダメージくらって瞬殺されます。
攻略法教えてください。お願いします。
ttp://gtvxi.com/uplink1028/9974link/



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